2022年3月、ウィリアム・アンド・メリー大学の研究チームは、絹繊維のタンパク質構造に関する新たな詳細を発見した。この種の情報は、クモの糸のように強力な組織を他の研究者たちが新たに作り出す手助けになる可能性がある。
過去数十年間、いくつかの研究グループがクモの糸に触発されて材料を開発し、テストしてきた。1つの方法は、クモの糸に含まれるタンパク質であるスピドロインに基づいて、クモの糸の複製を作ることだ。クモはスピドロインを生産できるが、工場いっぱいのクモを雇い、オンデマンドでスピドロンを作らせることは実用的とは言い難い。もちろんそれを考えた人たちはいたが、非常に時間がかかるうえに、最近のレビューによると、クモの「共食い行動」という問題もある。彼らは、クモの糸の生産規模を拡大するために繁殖させると、互いに食い合うという。
では、どうやってスピドロインを作ればよいだろうか。他のタンパク質と同じく、スピドロインは遺伝子によって符号化されている。このため、遺伝子配列がわかれば、遺伝子組換えされたスピドロインを他の生命体の中で作り出すことが可能だ。クモを使うことなくクモの糸を生産するために研究者たちが使っている主要な方法がこれだ。この方法はさらに、スピドロンを修正して、強い繊維を作るために望まれる性質をもち「クモの巣を作ること」以外の目的に適合させることも可能だ。
過去に科学者がこれに成功した方法の1つは、スピドロインをヤギの乳の中で発現させることだった。今は存在しないNexiaという会社は、この方法でBioSteelという繊維を作ったが、商業規模にスケールアップすることはできなかった。しかし、BioSteel自体には実用性があり、2012年に芸術家のスルリ・レヒトがこれを使ってシャツを作り遺伝子組換えによるクモの糸が繊維製品に利用できることを示した。
クモを使わずにクモの糸を作るもう1つの方法は、バクテリアなどの微生物の中でスピドロイン・タンパク質を発現させることだ。いくつかの研究グループや企業がこの道筋を辿ってきた。これは日本のバイオテック企業であるSpiber(スパイバー)が使用している生産工程でもあり、Brewed Proteinはさまざまな種類の布地の代替製品を作るために同社が使用している独自の繊維だ。同社の材料は、2020年のパリ・ファッションウィークのランウェイで中里唯馬のコレクションで披露された。
2020年1月23日、パリ・ファッションウィークの中里唯馬2020年春夏オートクチュール・ショウで、クモの糸からヒントを得たBrewed Proteinで作られた布地を披露した(Photo by Thierry Chesnot/Getty Images)
遺伝子組換えクモの糸の繊維から作れるのは衣類のための生地だけではない。他の研究者たちはこれらを使って、医療アプリケーション、バイオセンサー、組織工学、安全機器、スマートテック、工業アプリケーションなどさまざまな分野に応用することに力を注いでいる。
クモの巣には、ハロウィンの飾り以外にもたくさんの可能性がある。
(forbes.com 原文)