2割が女性起業家、圧倒的な未来を目指すファンドで分かったこと

佐俣アンリ、撮影=若原瑞昌

スタートアップに資金を提供する、ベンチャーキャピタル(VC)業界は、長年男性優位の仕事として見られてきた。しかし、近年ではSDGsの広がりとともに、投資家のダイバーシティの重要性も意識されるようになってきた。そこで、日本ベンチャーキャピタル協会はDII(ダイバーシティ&インクルージョンイニシアティブ)を立ち上げ、会員のVCにDIIへの取り組みを呼びかけている。
DIIのメンバーでもある、ベンチャーキャピタルANRIの佐俣アンリ代表にANRIにおけるD&Iの取り組みについて聞いた。


社内でも議論が起きた20%目標


代表パートナーを務めている、シードステージに特化したVC、ANRIは、2020年11月に4号ファンドで、女性が代表を務める企業への投資比率を20%まで引き上げることを宣言した。

この目標数値を掲げることについては、社内でも議論が起きた。

しかし、結果的に「素晴らしい起業家に投資できた」と手応えを感じている。4号ファンドの22年7月末時点の投資先数は、全98社に対して、女性起業家は20社と20%を上回っている。

目標数値を掲げることに慎重な意見の理由は、「(20%以上、投資するほどの)素晴らしい女性起業家がいないのではないか」というものだった。目標を達成するために、少ない女性起業家に「下駄を履かせて」投資したり、ファンドのパフォーマンスが下がってしまったりするのではないか、という懸念だ。

20社の投資を完了してみて思ったのは、この目標数値は、むしろ「(VCのパフォーマンスとして)いい打ち手ができた」ということだ。投資先の女性起業家と接する中で、「このファンドもその次のファンドも、むしろパフォーマンスを上げていけるな」という手応えを感じている。これまでは、女性起業家がいないのではなく、むしろ女性起業家から選ばれてこなかっただけだった。

なぜパフォーマンスにつながったのか。

そもそも、目標数値を宣言したことで、非常に多くの女性起業家から連絡をもらったし、こちらも積極的に女性起業家と面会する機会を設けた。そうして、トータルで80人以上の女性起業家や経営者と話をすることで、いい会社とめぐりあうことができた。

中でも、女性のキャリアをサポートするSHEの福田恵里さん、キャリアSNSのYOUTRUSTの岩崎由夏さん、不妊治療や女性医療を支えるAIサービスを提供するvivolaの角田夕香里さんといった優秀な女性起業家に投資していてわかったのが、「仕事もプライベートも自然体でいる」という感覚だ。

彼女たちは30歳前後の世代で、起業と結婚や出産といったライフイベントを両立している。周囲の理解も本人の努力もあるが、何かを諦めたりせずに、自然に選択肢がある。逆に、これまでの多くの男性起業家たちは、プライベートを犠牲にして働くことが当然だったし、ある意味で、押さえつけられていたのではないか。そういう意味で、「仕事もプライベートも自然体でいる」世代とは違った。

彼女たちを応援していると、自然と結果もついてくるはずだという自信も生まれてきた。22年7月、400億円規模の5号ファンド組成を発表したが、5号ファンドでも引き続き、投資先を20%以上の女性起業家にしていくつもりだ。
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文=佐俣アンリ、編集=成相通子

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