2割が女性起業家、圧倒的な未来を目指すファンドで分かったこと

佐俣アンリ、撮影=若原瑞昌


組織内のダイバーシティ


一方で、このように多様な起業家を支援するためには、VCの多様性も不可欠だ。そこで、ANRIでは組織内のD&I推進も始めている。

具体的には、起業家も女性20%という目標があるので、ベンチャーキャピタリストも20%を目指していきたい。来年入社の内定者も含めると、11人中3人が女性キャピタリストになる予定だ。

ただし、投資家のダイバーシティはまだ道半ばだ。ジェネラルパートナー(無限責任組合員、ファンドの運営に責任を負う投資家)は現在男性3人、マネジメント職に近いプリンシパルも3人中3人が男性だ。目標を定めてダイバーシティを進めていくことが重要だと考えている。

目標数値を定めて外部に発表することは、退路を断つという意味でもある。女性起業家の2割という数字も理想的なゴールだとは思っていないが、まずが外部に約束できる数字として2割を掲げた。究極的にはジェンダーバランスと同じ5割を目指すべきなのかもしれないが、マイノリティがマイノリティだと感じなくなる割合が一般的には3割だと言われているので、まずは3割に近づけていきたい。

もちろんVCは、出資者からお金を預かった上で投資活動をしているため、パフォーマンスを出すことは重要だ。

しかし、基本的には世の中をよくしたいという思いがまずはベースとしてある。それがVCをやっている理由だ。

我々がVCとしてシード投資をするのは、「未来が良い方向へと向かってほしい」という思いを大事にしたいからだ。目の前の帳尻合わせのパフォーマンスだけを追い求めるのではなく、どんな世界をつくりたいのか、にまず立ちかえりたい。目指すは、「圧倒的な未来をつくること」。そのためにいま何をすべきなのかを常に考え続けている。

事業が順調に進捗している会社の中には、女性起業家の会社で男性社員が少ない「逆ダイバーシティ」の問題が起きたり、ジェンダー割合以外にも、エンジニアに偏っていて事業サイドが少なくて困っている会社も出てきたりしている。

そういう極端な存在が未来をつくっていくのではないかと思う。常に完璧なダイバーシティを全員が達成する必要はなくて、新しい未来をつくる時に、今までの常識の真逆の特性を持った人たちが出てくることが面白いのではないか。

このようにトップの自分が考えていても、やはり数字を掲げないと達成できなかったと思う。できないと最初に決めてしまうのはもったいない。まず目標数値を掲げて、理想に向かって始めることが重要だ。


佐俣アンリ◎ANRI代表パートナー。East Venturesを経て、2012年、ベンチャーキャピタルANRIを設立。シードステージの投資に特化し、現在5本のフラッグシップファンドと脱炭素に特化したANRI GREENファンドを累計約550億円規模で運用中。

文=佐俣アンリ、編集=成相通子

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