メンデルスゾーンの名曲を編曲して、クジラ個体数減少に注目を集める試み

大西洋のザトウクジラは19~20世紀の捕鯨のために急速に減少した。Getty Images

1829年、フェリックス・メンデルスゾーンはヘブリディーズ諸島を訪れた。スコットランド沖に位置する島々だ。この旅は彼があの有名な「Hebrides Overture(フィンガルの洞窟)」を作曲するきっかけになった。そして今、ケンブリッジの学者2名が、この楽譜を利用して、北大西洋のザトウクジラの減少に注目を集めようとしている。

マシュー・アガーワラは、ケンブリッジ大学ベネット公共政策研究所の経済学者で、持続可能性、自然保護などを専門にしている。人間の活動が生物多様性にどのように影響を与えているかを明示するために、彼は作曲家のユアン・キャンベルと協力して、ザトウクジラの個体数が減少していったストーリーを、音楽を使って語った。

キャンベルは「フィンガルの洞窟」の楽譜を、メンデルスゾーンが原曲を作曲してから今までの期間に合わせて、十年単位に分割した。原曲の最初の音符から始めて、キャンベルは10年ごとのクジラの個体数減少の割合に応じて音符を削除していった。その結果生まれた「Hebrides Redacted(編集されたフィンガルの洞窟)」は、有名な原曲から消えた音符の数々を通じて、ザトウクジラの物語を伝えている。



ザトウクジラは、ヘブリディーズ諸島原産のクジラ種の1つであり、スコットランドのこの場所に思いを寄せたメンデルスゾーンの作品を使うことは自然な選択だった。しかしもう1つ、あまり明白ではないつながりがあった。この楽曲に含まれた音符の総数、約3万という数は、メンデルスゾーンが当地を訪れた1829年に北大西洋に生息していたザトウクジラの推定個体数とほぼ一致していた。

それ以降の数十年間、捕鯨のためにその数は急速に減少していった。1920年、メンデルスゾーンの作曲から1世紀もたたないうちに、クジラの3分の2がいなくなった。このことは「編集されたフィンガルの洞窟」の楽譜に反映されており、楽曲の途中に音符の3分の2がなくなっている部分がある。

「どん底の時期には、楽譜は希薄で断片化し、音階を作るために取り出せる音符はごく一部しかありませんでした。それでも、そんな壊滅的な状況に直面したときでさえ、自然には回復力があり常に美しく、そして楽曲の3分の2を失った後でさえ、そこにはまだ繊細な美しさがあるのです、たとえそれが、かつての劇的な荘厳さの色褪せた模倣であっても」とキャンベルはケンブリッジ大学に伝えた

しかしこの楽譜はさらに楽観的に先を見越している。成功した会話の試みを反映して、変更された作品の最後の数十年間を表す部分は、失われていた音符を取り戻し、曲の最後(西暦2100年)で楽譜は再び完成した。

「海の管理が改善され、クジラの個体数が復活し始めた時期を見ることができます」とアガーワラはいう。

「編集されたフィンガルの洞窟」は、8月にオックスフォードシャーで開催されたウィルダネス・フェスティバルで演奏され、その録画はCambridge Zero Climate Change Festivalの中で公開されている。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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