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2022.12.09

人的資本経営時代の企業の新たな役割「人材価値を循環させる」

photo by Gettyimages / Yoshiyoshi Hirokawa

第1回では「今、人的資本経営に取り組むべき理由」、第2回では「人的資本の情報開示」についてお話ししました。今回は、人的資本への投資を行うにあたって注目すべきポイントをお伝えします。

人的資本への投資は、人的資本経営の中核です。また同時に、人的資本を情報開示する際に折り込むべき中心的なテーマになります。人的資本投資に関する一連の取り組みを、いかにデザインし実行していくかが人的資本経営の成否を分けます。私は人的資本への投資には、以下の3つの観点があると考えています。

1)人材価値の向上

2)人材価値の活用

3)人材価値の循環
人的資本の要素の図


「人材価値の向上」への投資とは、人材の採用、従業員のスキルや能力を高めるための取り組みを指します。セミナーや研修による能力開発、リスキリングによるデジタル人材育成やリーダー人材の育成などがこれにあたります。

たとえば三井化学では、経営者候補に求める人材要件を具体化。経営者候補に必要な経験として、「経営的視野」「事業再構築」「新事業開発」「全社横断プロジェクト」「海外経験」という5つの軸を示しています。さらには、後継者候補の確保の状況を数値化した「後継者候補準備率」の経年変化を測定し、公式サイトで開示しています。

一方、人材開発への投資額を開示しているのが丸井グループです。同社は人材投資額を、「2017年3月期:4.8億円」から「2019年3月期:10.5億円」と2倍以上へ引き上げ、以降、毎年10億円程度の人材投資を継続することを公表しています。約10億円の内訳(採用・その他人材開発費、研修時人件費、外部研修・教育費、研修センター費など)を数値で示したグラフも開示しています。

人材価値の「向上」と「活用」をセットでデザインする


第1回でご紹介した通り、日本企業の人的投資(OJTを除くOFF-JTの研修費用)は先進諸国に比べて低い水準にあり、どのように「人材価値の向上」を取り組むかは、多くの企業にとって課題になっています。

ただし人材価値を向上させても、それを活用できていなければ意味がありません。従業員の保有スキル・知識・経験を企業の価値創出につなげるための仕組みを作り、機能させることもあわせて検討する必要があります。

「人材価値の活用」への投資にあたるのは、人材を最大限に活用する適材適所の実現、個々の強みを活かすジョブ・アサインメント、従業員同士のコラボレーション促進など。定期的に従業員のエンゲージメント測定も実施し、課題の解決を図るような取り組みもこれに該当します。

適材適所(最適な配置)やジョブ・アサインメントの実現状況を、企業で働いている10000人以上に確認したものが以下のグラフです。

1. 今の部署や職場は、自分の知識やスキル・経験を活用する上で最適な配置だと感じている

2. 現在任されている仕事は、自分の知識やスキル・経験を活用する上で最適な職務内容だと感じている

仕事やスキルの自己認識の割合
出典:リクルート「人的資本経営に関する働く人の意識調査(2022)」

調査結果を見ると、「あてはまる」と回答した割合はどちらも5%程度。「ややあてはまる」 を加えた「あてはまる計」の割合は約30%でした。調査結果は、『企業の人的資本がおよそ30%しか活性化されていない』という厳しい現実を示しています。
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寄稿=津田 郁(リクルート)

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