さらに、上記の自己認識別に見た従業員エンゲージメント・職務エンゲージメント・組織エンゲージメント*1のスコアを示しているのが以下のグラフです。適材適所やジョブ・アサインメントの状況が、明確に各エンゲージメントのスコアに影響していることがわかります。
※サンプル数 全体:10459 人、あてはまる計:3216 人、どちらともいえない:5147 人、あてはまらない計:2096 人
※サンプル数 全体:10459 人、あてはまる計:3413 人、どちらともいえない:5055 人、あてはまらない計:1991 人
出典:リクルート「人的資本経営に関する働く人の意識調査(2022)」
*1従業員エンゲージメントは、①職務自体との関わりや愛着の度合いを示す「職務エンゲージメント」と② 組織自体と従業員の結びつきの強さを示す「組織エンゲージメント」で構成されます(Saks, 2006)。ここでは、従業員 エンゲージメントおよび、職務エンゲージメント・組織エンゲージメ ントそれぞれのスコアを掲載しています(最小値 1、最大値 5)。
経営陣が「従業員エンゲージメント」に強くコミットしている企業の代表例が、ソニーグループです。同社で年1回測定しているエンゲージメントの評価結果は、役員の評価指標の一部にも反映されています。
先ほども挙げた三井化学では、全階層の従業員を対象に、上司による評価結果のフィードバックを年1回実施。フィードバックの実施率のほか、従業員がフィードバックに対してどの程度納得しているかも数値化して開示しています。
なお、人材価値の「向上」と「活用」は、明確に区分できない部分もあります。例えば、日本企業に根付いている「OJT(On-the-Job Training)」などは、人材を現場に投入して「活用」しながら、スキルの「向上」を促進する人材育成システムです。「向上」「活用」は相互に作用するものですから、セットにして人的資本投資をデザインすることが重要であるといえるでしょう。
経済的観点から見る「人材価値の循環」の重要性
「人材価値の向上」と「人材価値の活用」。これらに加えて人的資本投資における重要な観点が「人材価値の循環」です。「人材価値の循環」とは、人材の価値を企業の枠を超えて広く社会で巡らせ、知のネットワークを構築する取り組みを意味します。具体的な取り組みとしては、次のようなものがあります。
●従業員の副業・兼業を認め、従業員の知見を社外で活用できるようにする
●アルムナイネットワークの構築・運営により、退職した従業員とのつながりを保つ
●退職した社員の「出戻り」を受け入れる
●常日頃から従業員の変化対応力を高める
これらの取り組みは、一見、従業員側のメリットが大きいように見えますが、実際には企業側にとっても経済合理性にかなっています。
事業ドメインの多様化、ビジネス環境の変化が加速している今の時代、企業が新たな事業戦略を推進していくにあたり、自社内のリソースのみでは変化のスピードに追い付けません。社内外の多様な知見を結集してイノベーションの創出を図る時代なのです。
その時々の状況に応じ、社外の知見・スキルを活用する。社内の人材を社会に開放すると同時に、社外の人材を受け入れて自社にない知見を取り入れる──そんな「知のネットワーク資本」を日頃から構築しておけるかどうかが、企業の存続・成長を左右するといえるでしょう。
たとえば、リンクトインの創業者であるリード・ホフマンは、著書『ALLIANCE』*2の中で、「ネットワーク情報収集力」の重要性を示唆しています。従業員の人的ネットワークを通じて得られる知識や情報は、組織が外部とかかわり合いをもつことや、そこから学ぶのに最も効率的な方法であるという考えです。自社のビジネス推進やイノベーション創出の観点からも従業員の副業は有益と考え、これを推奨しているのです。このような「ネットワーク情報収集力」を組織として高めるために副業制度を活用するのも一つの方法でしょう。
*2リード・ホフマン, ベン・カスノーカ, クリス・イェ, 篠田真貴子監訳, 倉田幸信訳, 『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』ダイヤモンド社, 2015年, p120.
弊社リクルートでは、「出戻り(再入社)人数」や卒業者(退職者)の進路を公表しています。22年のデータでは、卒業者のうち「独立・起業」した人の割合が14%でした。独立・起業後もリクルートのパートナーとしてビジネスを営んでいる人も多く、雇用関係は無くなっても知のネットワークは途切れていません。