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2022.10.12 08:00

ザッカーバーグの資産運用会社ICONIQ が欧州に期待する理由

Iconiq設立者のDivesh Makan(Photo by Chad Buchanan/Getty Images)

Iconiq設立者のDivesh Makan(Photo by Chad Buchanan/Getty Images)

フィンランドのフードデリバリー・スタートアップ「Wolt」のCEO兼共同創業者であるミキ・クーシ(Miki Kuusi)のもとに、土曜の夜遅く、サンフランシスコから電話が掛かってきた。電話の主は、マーク・ザッカーバーグやシェリル・サンドバーグ、リード・ホフマンなどのシリコンバレーの富豪の資産を管理する、秘密主義のファミリーオフィス「Iconiq Capital」の投資担当者で、翌日ヘルシンキへ飛んで、クーシと面会したいと言ってきたのだ。

「彼らは、電話から24時間以内にサンフランシスコからヘルシンキへ飛んできた。しかし、我々がより感銘を受けたのは、彼らの押しの強さだった」とクーシは言う。この面談の結果、Iconiqは2019年にWoltが1億3000万ドル(約188億円)を調達したラウンドでリードインベスターを務めた。

そのIconiqが、ベイエリアと欧州の距離を埋めるためにロンドン事務所を開設し、Accelでパートナーを務めたSeth Pierrepontを責任者に据えた。ロンドン事務所のメンバーは6人とまだ小規模で、グロースステージのディールに焦点を当てた投資を行っている。その他のベンチャー投資や不動産投資のほか、超富裕層のために家の購入から税金の申告、プライベートジェットの予約までを行うファミリーオフィスは、米国で管理している。

「我々にとって欧州は目新しいものではなく、この地域から生まれる創業者やビジネスアイデアの質の高さには常に注目してきた。ロンドンに事務所を開設することで、欧州をより広くカバーすることが可能になる」とPierrepontは述べた。彼は、Accel時代にダブリン本拠のコード不要のセキュリティ自動化サービス「Tines」への出資を主導したほか、テルアビブのセキュリティ企業「Snyk」やスウェーデンの遠隔医療スタートアップ「Kry」のディールを手掛けた。

Iconiqは、ウーバーやデータドッグ、スノーフレイクなどへのIPO前の出資で知られている。同社は、デザインスサービス「Figma」のシリーズAラウンドを支援するなど、少数ながら優れたスタートアップへのアーリーステージ投資も行ってきた。

Iconiqは、既に欧州での投資で成功を収めている。例えば、Woltは2021年11月にドアダッシュに81億ドルで買収されたが、これは、Iconiqが2019年に出資した際の評価額の約20倍だ。同社はまた、オランダの決済企業「Adyen」の初期に大株主となったが、同社の時価総額は400億ドルに達する。Iconiqは、ベルギーのデータプラットフォーム「Collibra」やロンドン本拠のフィンテック企業「Primer」にも出資している。

シリコンバレーの大物が頼る運用会社


Iconiqは、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー出身のバンカーであるDivesh Makan、Michael Anders、Chad Boedingによって2011年に設立された。Makanは、ザッカーバーグがパロアルトに移った直後から彼の資産を運用するようになり、その他にも将来のシリコンバレーの大物たちを顧客に加えた。

Iconiqが規制当局に提出した資料によると、同社は現在337人の富裕層を顧客に持つという。同社の運用資産は、2020年11月の430億ドルから800億ドル以上に急拡大した。データドッグなど、Iconiqのかつての投資先の株価がピーク時から40%近く下がっているにもかかわらずだ。

Iconiq GrowthのゼネラルパートナーであるMatthew Jacobsonによると、Iconiqの投資先の中で欧州に本拠を置く企業は10%程度に過ぎないが、創業者たちの経験が豊富であることや、大手企業の幹部が新しい会社を立ち上げるケースが多いことなどが、欧州進出の決め手になったという。

「連続起業家や経験豊富なエコシステムの存在が強力なダイナミクスを生み出しており、欧州での投資を魅力的にしている」とJacobsonは話す。

Iconiqの競合には、より規模が大きい地元の投資家をはじめ、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズやゼネラルカタリスト、セコイア・キャピタルなどの米国系投資家が含まれる。セコイア・キャピタルのロンドン事務所を率いるLuciana Lixandruは、PierrepontのAccel時代の同僚だ。

Iconiqの事業は広範に及ぶため、利益相反が生じる可能性が増大している。その一方で、その緊密なネットワークこそが、潜在的な投資先企業に対する最大のセールスポイントになっている。AdyenのCEO兼共同創業者であるPieter Van der Doesは、2015年にIconiqから資金を調達(金額は非公開)したが、彼がIconiqを選んだ理由は、まさに同社の持つネットワークであったという。

パンデミック中に実施されたIPOによって誕生したビリオネアたちは、Iconiqに新たな顧客を提供することになるかもしれない。秘密主義で知られるIconiqがロゴ変更以外にウェブサイトをアップデートしたのは、2020年の1回だけだ。拡大し続ける同社のネットワークは、新たに起業する創業者に一層魅力的に映るだろう。「Iconiqは、創業者を支援すると約束し、実際に彼らのネットワークを我々に開放してくれた」とVan der Doesは述べた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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