私は「オールバウンド体制」を強くオススメしたい。
多数の訪日客がいた2018年頃、インバウンド市場で獲得した顧客に対して、自社ブランドの訴求・浸透を図るべく、越境ECや現地店舗の展開を強化する動きが多くの日本企業でみられた。コロナが流行し始めた2020年春頃にも、消失した日本の店舗でのインバウンド需要を取り返そうと、同様の動きがあった。
日本国内のインバウンドは国内事業部や営業部が、海外現地法人を立ち上げている場合は現地事業部が、日中にまたがるクロスボーダー事業の越境ECは専門部門や免税品を対象とするトラベルリテール部門が、それぞれ予算を持ち事業を行っていた。
その状況下で生じたのが、日本企業にありがちな部門間連携がスムーズにいかない「縦割り組織の壁」である。
顧客層が同じであるにもかかわらず、上記の各部門が別々の戦略を進めることで投資効率を下げ、ブランド世界観の表現にほころびが生じる例が散見されたのだ。
それ以来私は、インバウンド、アウトバウンド、越境ECなどを一つのプロジェクトにし、専門部隊を用意することで俯瞰的に顧客戦略を練る「オールバウンド体制」を提唱してきた。
中国の消費者は、SNSを中心にブランドの情報に接し、習慣や嗜好性で購入先を選択している。これはコロナ流行前後で変わっていない行動だ。旅前・旅中・旅後という消費者ジャーニーの理解を進めながら、統合的なマルチチャネルで需要の取り込みを図ることを強く推奨したい。
実際に、トレンドExpressの支援先企業では、先述した部門バラバラでの事業推進をオールバウンド体制に整え直したことで、投資効率が改善。また消費者への統一されたブランディングが実施され、売り上げ拡大に結びついた例は少なくない。
グローバルな視点に立ち、日本市場を“ブランドのショールーム”として位置づけ、訪日時の特別な価値を届けることが、中長期的な顧客戦略において重要なことだ。
ゼロコロナ政策により、中国からの訪日客の戻りが懸念されるが、規制が緩和されれば旅行客が一気になだれ込むことは確実。ただ、2019年のインバウンド戦略の焼き直し・微調整では不十分だ。早期にポストコロナのインバウンド戦略を立案し、推進していく必要があるだろう。