増加する米国でのCEO交代、業績不振ばかりではないその裏事情

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのさなか、米国では離職する労働者の割合が歴史的な高率に達し、「大離職時代」と呼ばれるまでになった。賃金がより高いギグワークに乗り換える人、レイオフ後に新しい職を見つけた人、あるいは、自分の情熱の対象を追求するために仕事を辞める人などが続出したからだ。

しかし最高経営責任者(CEO)に関しては、2021年の交代率は逆に低下した。これは、カンファレンス・ボードがフォーブスに独占提供した分析リポートで判明したことだ。

このリポートによると、時価総額上位3000社を扱う「ラッセル3000株価指数」の構成企業に入っている企業のうち、2021年にトップが交代した会社は全体の9.6%で、前年の11.6%から減少した。これは、世界を襲ったパンデミックだけでなく、サプライチェーンの危機、さらには二極化が進んだ米国の社会不安というさまざまな状況のなかで、多くのCEOがそのまま企業にとどまり、舵をとるよう要請されたということだ。

そして今、2022年に入って社会の流れが反転するなかで、CEOたちのなかでも、それまで率いていた会社をあとにするケースが増え始めている。

「こうした動きの原動力となっているのは、端的に言えば、前から退任が計画されていたものの、延期になっていたケースが多かったということだ。その裏には、パンデミックでただでさえ先が見えないところに、トップの引き継ぎというさらなる不確定要因を加えたくないという心理がある」と、カンファレンス・ボードのESG(環境・社会・ガバナンス)リサーチ部門責任者、マテオ・トネロは指摘する。

トネロの分析は、データ分析企業のESGAUGE、およびエグゼクティブ・サーチ企業のハイドリック&ストラグルズによる調査プロジェクトに基づいている。それによると、退任年齢に達したCEOの交代率は、2021年は横ばいだったものの、2022年はじめの数カ月で急速に上昇したという。公益事業や医療、さらには小売業をはじめとする一般消費財に関わる産業では、特に2022年に入っての上昇が著しいという分析結果が出ている。

だが、年齢による退任によって交代率が再び上昇を始めたとはいえ、取締役会は、まだ今のところ、自らが白羽の矢を立てたCEOを無理やり追い出そうとはしていないようだ。カンファレンス・ボードのデータを見ると、2021年には、株価の上昇率が5.2%から1.4%と、株式市場での実績がはかばかしくなかったラッセル3000企業でも、トップの交代率が大きく下がっている。また、S&P500企業については、2021年にCEOが職を追われたケースは、知られている限りでは1つもなかった。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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