第三は、「エコノミスト・シンクタンク」から「アーティスト・シンクタンク」への進化である。
従来のシンクタンクは、エコノミストと経営コンサルタントが中心となって、主に経済と経営を緻密な論理で語る「エコノミスト・シンクタンク」と呼ぶべきものが主流であったが、新時代のシンクタンクは、経済と経営だけでなく、生活や仕事、文化や教育、さらには芸術や音楽をも豊かな感性で語る「アーティスト・シンクタンク」とでも呼ぶべきものへと進化していくだろう。ソフィアバンクが、建築家、音楽家、映画監督、スポーツ監督などをパートナーとしているのは、そのビジョンからである。
第四は、「コミッティ・シンクタンク」から「コミュニティ・シンクタンク」への進化である。
従来のシンクタンクは、専門家を集めた委員会(コミッティ)を運営することによって専門家の意見を集約し、様々な政策の立案や提言を行う「コミッティ・シンクタンク」と呼ぶべきものであったが、新時代のシンクタンクは、「群衆の叡智」や「コミュニティ・ソリューション」という言葉に象徴されるように、世の中の多くの人々の叡智を結集し、問題への解決策を生み出していく「コミュニティ・シンクタンク」へと進化していくだろう。TEDが、世界中の無数のTEDコミュニティから叡智を集め、毎年、Ideas Worth Spreadingを掲げたカンファレンスを行っているのは、その一つの先進的な事例である。
第五は、「エキスパート・シンクタンク」から「イノベーター・シンクタンク」への進化である。
従来のシンクタンクは、調査研究の実施を通じて、その組織内で様々な分野の専門家(エキスパート)を育てていく「エキスパート・シンクタンク」と呼ぶべきものであったが、新時代のシンクタンクは、様々なプロジェクトや事業の実施を通じて現実の社会に「イノベーション」をもたらしていく人材、すなわち「ソーシャル・イノベーター」を育てていく「イノベーター・シンクタンク」へと進化していくだろう。なぜなら、新時代のシンクタンクが、現実の変革をめざす「ドゥータンク」であるならば、その変革を担う人材を育てることも必然的な役割となるからである。世界経済フォーラムが、その傘下に「シュワブ財団」を持ち、世界中の社会起業家の育成と支援を行っているのは、その一つの象徴的な事例である。
こう述べてくると、読者は、これは狭いシンクタンク業界の未来像ではないことに気づかれるだろう。
実は、これは、知的活動を行うすべての人と組織が、一度見つめてみるべき未来像に他ならない。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7300名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『知性を磨く』など90冊余。