店舗における在庫管理の難しさ
店舗で正確な在庫数を把握できない主な理由は、盗難や誤納品、レジの打ち間違いなどによって在庫データが狂ってしまうからだ。そしてそのデータの狂いを正しく補正するためには、棚卸をしてどの商品が何点あるかを確認する必要がある。
しかし、数万点にのぼる在庫を一つずつバーコードスキャンする作業の負荷は非常に大きく、そのため棚卸は年に1~2回の期末だけという小売チェーンも少なくない。そうすると、販売データや入出荷データをもとに毎日在庫を更新したとしても、どうしても在庫データはどんどん実態と乖離が出てしまうのだ。
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信頼できる在庫データがカギ
前置きが長くなったが、これがWalmartがRFIDを商品に取り付けた理由だ。RFIDがついていれば、1点ずつバーコードをスキャンしなくても、無線技術を使って一度に大量の商品の有無を把握できるようになる。
それによって在庫データが正しくなれば、小売業者はオンライン上で安全在庫を加味する必要がなくなり、「最後の1個」まで販売することが可能になる。また正しい在庫データに基づいてオンライン上の店舗在庫の表示やBOPISといったサービスを提供できるようになると、消費者が自分の欲しい物がどこにあるかを正確に知ることができるようになり、ECサイトと同じように欲しいモノを欲しいときに欲しい場所で購入できるようになる。
リアルとデジタルの壁をなくす
消費者の利便性への要求が高まる状況は、日本の小売業にとって大きな転換点であると同時に、チャンスでもある。
ECサイトと同じレベルで欲しいモノが欲しいときに欲しい場所で手に入るようになれば、消費者はストレスを感じることなく店舗での購買を楽しむことができる。近所の店舗で購入した方がECサイトの配送を待つよりも確実に早く手に入るなら、それは実店舗の優位性になる。
オンラインで注文/在庫確認、店舗で受取/購入という行為は、消費者にとって、リアルとデジタルに壁がないシームレスな状態だ。これを実現するためには、まずは高い精度で在庫データを管理し、どこに何が何個あるのかを企業自身もさることながら消費者にも見える状態にすることが重要になるだろう。
三澤 明希子◎Avery Dennison Smartrac Japan マーケットディベロップメントマネージャー。大学卒業後、トヨタ自動車にて生産用部品の調達・物流オペレーションの企画・改善に従事。その後PwCコンサルティングにて通信・メディア・テクノロジー業界のクライアントへのコンサルティングに従事し、2021年Avery Dennisonに入社。食品業界・小売企業へのデジタルIDを用いたソリューションの提案、導入支援を行っている。立教大学経営学部卒。