ビジネス

2015.06.03

日本に必要な「マーケティング4.0」とは何か

A.H.マズローの欲求5段階説(図)

「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン」に登壇した
フィリップ・コトラー教授が講演で語った「マーケティング4.0」とはー。


日本は、世界で最もマーケティングが必要とされる国である。なぜなら業界内競争が激しく、製品・サービスが高品質だからだ。さらに現代は、先進国では、日常生活を送るうえで足りないものはほとんどなく、顧客のニーズは満たされているといっても過言ではない。だから、わずかな質の改善を続けても、その違いは付加価値とならないのだ。

そんななか、日本企業の多くは、高度経済成長期と同じマーケティング手法をとっているように見える。日本のマーケティングは、エンジニアリングと比べると強くないと思う。


マーケティングの新潮流

いま、マーケティングは新たな潮流を迎えており、変化が求められている。これからは「コ・クリエイション(価値共創)」「クラウドソーシング」が中心になっていく時代である。

つまり、企業は、「顧客が何を持つべきか」をつくり出そうと考えるのではなく、「顧客が何を求めているのか」ということを一緒に考え、ともにつくり出していくプロセスが必要だということだ。つまり、何をつくり出したら、顧客がもっと幸せになるのかを聞きながら、新しい価値をともにつくっていくことが必要なのである。

これを別の言い方にすると、「マーケティング4.0」となるだろう。マーケティング4.0の話をする前に、これまでのマーケティングの変遷をたどりたい。

マーケティング1.0は、1950年代のアメリカで生まれたモデルであり「製品中心のマーケティング」のことである。技術革新によって製造業が経済の中心となり、生産コストをできるだけおさえて安価な製品をつくり、マス市場を対象に売り込む。「製品を販売すること」を目的に、製品機能そのものが価値をもつ。

マーケティング2.0は、「顧客志向のマーケティング」である。顧客にとって多くの製品がコモディティ化し、製品そのもので付加価値を与えることが難しくなったことから、顧客ニーズを起点に考える時代になった。その結果、製品やサービスがもたらす価値は企業が決めるのではなく、顧客が決める時代となったのだ。

つまり、顧客主導のマーケティングでは、「顧客を満足させ、つなぎとめること」を目的に、企業は製品の機能ではなく、顧客のニーズをくみ取ることが大切になった。大量生産・大量消費型のビジネスモデルが崩れ、多品種少量生産型経済が到来したのである。

マーケティング3.0は、「価値主導のマーケティング」である。価値主導のマーケティングとは、潜在的な顧客の隠れたニーズを探ること、そして顧客を全人的な存在として扱うことを意味する。「世界をよりよい場所にすること」を目的とし、企業は、生活者に製品やサービスだけでなく、精神的価値や社会的価値を提供する存在へと変貌したのだ。

マーケティング3.0 時代は、マーケティング2.0 時代に有効とされたリサーチに頼っても他社との優位性を築くことはできない。顕在化したニーズで競争をすると、ただの価格競争しかもたらさないからだ。


マズローの「欲求5段階説」が基盤

それでは「マーケティング4.0」はどのようなマーケティングなのだろうか―。
それは「自己実現欲求」に焦点を絞ったマーケティングである。

の「自己実現欲求」のことを指す。ここでいう自己実現欲求とは、人間の最上位の欲求であり、「自分に注目してほしい」「自分の所属するグループは、ほかとは違う」というだけではなく、「自分が何者か」ということをはっきりと示せるようになりたいという欲求である。

現在、多くの人々は、マズローの欲求5段階説のうちの3段階目「社会的欲求」までは満たされている。社会的な帰属、愛の欲求という、自分を大事にしてくれるグループに属したい、そしてグループの人たちと協力していい生活を送りたいとの思いはある程度、かなうようになった。

だからこそ、人々は帰属意識だけでなく、個人として尊敬されたいと考えるようになった(「尊厳欲求」)。そして、一部の人たちは尊厳欲求を超えて、自己実現欲求にまで高まっている。

そうした流れは、ソーシャル・メディアが後押ししている部分もある。個々の“声”を周囲の人たちに聞かせたい―、つまり誰でもブロードキャスターのようになり、日常の中での自分の意見や世界に対する意見を発信し、自己表現する。それも一種の自己実現になる。

マズローの「自己実現欲求」が、まさにマーケティングの次の段階で求められることだ。

フォーブス ジャパン編集部=文

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