ゴールドスミスは新著『The Earned Life』の中で、仏教からヒントを得た考え方として、後悔のない充実した人生を送るためには、キャリア上の成功という単独の成果ではなく、もっと広い視野を持つ必要があると記している。
「“呼吸するたびに、私は新しい自分になる”という釈迦の言葉は、比喩ではない。文字通りの意味だ。釈迦は、人生とは以前の自分から今の自分への生まれ変わりを繰り返しながら進んでいくものだと説いていた」
「仏教の根本理念のひとつに、諸行無常という考え方がある。今持つ感情、考え、所有物は永久不変ではないという理念だ。これらは、息をする一瞬の間に消えてしまうかもしれない」
ゴールドスミスは、西洋は「〇〇できれば自分は幸せになれる」という大きな“病い”に冒されていると指摘する。「昇進したら、テスラを買ったら、このピザを食べ終えたら、といった短期や長期の望みが叶えば幸せになれるというマインドセットが蔓延している」
「そしてもちろん、望んでいたものをついに手に入れても、そのうち何らかの理由でその価値がかすんで見えるようになり、心は次の望みへと向かう。組織の中でさらに上の地位に立ちたい、もっと航続距離の長いテスラ車がほしい、ピザをもう一切れ持ち帰り用にオーダーしたい──。私たちは、仏教で言うところの“餓鬼”の境地にいる。常に食べ続けているが、決して満たされることはない」
これはフラストレーションの溜まる生き方だとゴールドスミスは指摘し、世界の見方を変えるよう勧めている。まずは過去や未来よりも、今の瞬間を大切にすることだ。
人生では、自分の選択と行動によって、喜びや幸せ、悲しみ、不安を感じることもある。「しかし、そういった感情は長続きしない」とゴールドスミスは言う。「呼吸するたびに感情は変化し、最終的には消えて、過去の経験となる」。つまり、あなたが次の呼吸、次の日、次の年に起きればいいのにと望んでいるものを経験するのは、今とは違う自分になる。重要なのは未来の自分ではなく、今の自分だ。