30U30

2022.09.04 12:00

人気の現代アート展を企画する仕掛け人、髙木 遊の「企て」

髙木 遊(金沢21世紀美術館 アシスタントキュレーター)

髙木 遊(金沢21世紀美術館 アシスタントキュレーター)

日本発「世界を変える30歳未満」の30人を選出するプロジェクト「30 UNDER 30 JAPAN」。

アート&スタイル部門では、金沢21世紀美術館のアシスタントキュレーター、髙木 遊(28)が受賞。日本を代表するキュレーターである長谷川祐子が「新世代のアート界を担う若きリーダーのひとり」と期待する逸材だ。


2015年11月、京都大学で美術史や芸術哲学などを学んでいた4年生の髙木遊は、あるプロジェクトを大学に無許可で決行する。

16人の表現者による作品を学内のトイレで展示する実験だ。ゴリラの写真を飾ったり、照明に赤いフィルターを被せたり、落ち葉を一面に敷き詰めたり。何のためにこんなことをしたのか?

そこには、鑑賞という行為を「場所」から考察してもらうキュレーターとしての目的があった。アートを美術館の外へ解放したときに、私たちはどう感じるか。彼が生涯のテーマとして執着するのは「場所」だ。

「これまで日本の美術館があまり自由な状態でないと感じることが多かったので、人がいちばん『素』の状態でアートを鑑賞してほしくなったんです。その空間が快か、不快かという感覚を大切にしたい」

美術館が嫌いではなく、むしろ「救われた経験がある」という。

自らの絵心のなさを嘆いて、アートに距離を置いていた中学生の髙木をフランスへ連れ出した父親との旅行。数々の作品にまして興味を引かれたのが、石造りの元駅舎を改築したオルセーや、宮殿をそのまま利用したルーヴルの巨大な空間。

「うやうやしく鑑賞するのではなく、自由にくつろいでアートに接している。すごく変わった場所のあり方だと思った」

以来、取りつかれたように美術館という場所について考えた。

美術館での初キュレーションは10月


将来の夢は「美術館をつくること」。そのためには美術館で働く経験を積んでおこうと、今春から金沢21世紀美術館のアシスタントキュレーターに就いた。

これまでの髙木は美術館外での活動が多かった。東京藝大の大学院ではアートプロデュースを専攻。NPOを立ち上げて藝大近くで「HB.Nezu」「The 5th Floor」といった実験的なアートスペースを運営してきた。

藝大在学中の集大成であり、刻一刻と変わる自然の中に作品を配した「生きられた庭 | Le Jardin Convivial」展が学内外で高い評価を得た後、2021年には「Standing Ovation | 四肢の向かう先」展のキュレーターを務めた。閉館したホテルという場所性を徹底的に読み解いたうえでの7名による作品展示はSNSの話題をさらう。

取材当日は、「ドクメンタ15」の視察でドイツから帰国したばかり。参加アーティストにはグローバルサウスから来た人々もいた。深刻な社会問題に立ち向かいながら生きることと直結した表現に触れ、まだ自分が知る現代アートはこの世界の一部に過ぎない、と大きな刺激を受けたという。

その成果を、新しい自らの場所で生かせるか。2022年10月1日から23年3月19日まで、自身が主体となる金沢21世紀美術館での初企画として、若手アーティストの石毛健太とBIENによる「アペルト17SCAN THE WORLD[NEW GAME]」に挑む。

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たかぎ・ゆう◎1994年、京都府生まれ。2016年京都大学卒業、20年東京藝術大学大学院修了、ラリュス賞受賞。「HB. Nezu」「The 5th Floor」ディレクター。22年4月より現職。

文=神吉弘邦 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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