30U30

2022.09.03 12:00

自らの手で世界をもぎ取った、グラフィックアートの寵児Sora Aota

Sora Aota/K2(グラフィックアーティスト)

日本発「世界を変える30歳未満」の30人を選出するプロジェクト「30 UNDER 30 JAPAN」。

今年、アート&スタイル部門を受賞した1人が、Sora Aota/K2(20)。

グラフィックアート界に彗星のごとく登場し、海外の有名ミュージシャンのアルバムジャケットを手がけ、その名は一気に世界に知れ渡った。
ひたすら描き続けることで弱冠二十歳にして才能を開花させたSora Aotaは、いかにして誕生したのか。


「今年初めて東京に行って、いろいろな人にすごいねって、言ってもらってやっと実感が沸いたんです」

手掛けたデザインアートが世界的に評価されたことについて、Sora Aotaは、はにかみながらつぶやく。

2021年2月にリリースされた米人気ラッパー、トリッピー・レッドのアルバム『Neon Shark & Pegasus』のジャケットアートが、世界のミュージックシーンで一躍脚光を浴びた。その作品を描いた無名の新人グラフィックアーティストが、福島県相馬市在住の当時19歳の少年、Sora Aotaだ。
 

独学から海外のラッパーへ売り込みグラフィックアーティストに


Soraがデザインアートに触れたのは、地元の高校を卒業する頃だった。eスポーツのキャラクターやロゴを好きで描く程度だったが、グラフィックアーティストとして働く姿を思い描いていた。周りの友人たちが土木や飲食関連の地元企業に就職していく中、進路を決める現実に苦悩した。

迷うSora に、夕食を共にしていた家族がふと口にした。

「おまえは絵がうまいんだから、専門学校に行ったらどう?」

Soraは「この言葉がなかったら、今の自分はなかった」と振り返る。
 
イラストの専門学校に入学するが、学校での授業にどこか満足感を得られず、2カ月後に退学を決意する。ここから独学でiPadを使い、制作に没頭するようになる。丸1日寝ずに描くこともざらだった。みるみる技術は上がっていったが──。
 
「このままだとまずい」

実家から一歩も出ずただひたすら作品を描く日々。絵の上達にともなって次の未来が見えない焦りから、その頃聴き始めたヒップホップのアーティストにファンアートを送り、売り込みを始めた。

「とにかく何もない田舎なんで、待っていても何も起きないので、SNSに作品をアップしたり、好きなミュージシャンにファンアートを送ったりして積極的に売り込んでいったんです」

偶然、SNSで目にしたトリッピー・レッドのジ ャケット・デザインコンテストに応募する。作品が採用されたことで、ヤング・サグ2ndアルバム『PUNK』のジャケット写真を手掛けるなど、人気ラッパーから依頼が舞い込んだ。アーティストSora Aotaが産声を上げた。
 

ファッションのデザインにも挑戦モノづくりをしたい


いきなり海外との仕事。むずかしさは、言葉の壁だ。

翻訳アプリを使っての制作はかなり時間がかかる。細かい修正も、当然生まれる。納期も「1週間で」というのは当たり前にある。ひどい時は「明日」ということも。依頼が来ても、制作の途中でほかのアーチストの作品が採用されるという苦い経験もあった。

しかし海外からの無理難題に対処するうちに、技術力も仕事量も伸びていった。気づけば、この1年で手掛けた作品は20を超えた。ガンナ、イアン・ディオール、リル・ティージェーなど、ジャケット作品を提供したアーティストは数知れない。
次ページ > まだまだ高みを目指す。ゆるぎないSora Aotaの世界観

文=中沢弘子

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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