30U30

2022.09.03 12:00

自らの手で世界をもぎ取った、グラフィックアートの寵児Sora Aota


そんなSoraにとって、アーティストとして活躍の場を広げるきっかけとなった作品が、世界的人気シンガー、ドージャ・キャットの『プラネット・ハー』国内盤の特典Tシャツのデザインだった。この作品からジャケット以外のアートデザインも手掛けるようになる。

また、この頃から事務所に所属し、チームでアートディレクションをこなすようになり、仕事の幅も一気に広がる。今年春には「ARCHENY(アーケニー)」というファッションブランドを立ち上げ、自身のデザインを落とし込んだTシャツやフーディーなどのファッションアイテムを発表している。

「自分でモノを作りたいなって思っていて。実際に形になる自分の作品を残したいなって思っているんです」
 

好きなデザインで生活できればいい


アートの世界に憧れていた1年前の自分。1年後の自分は憧れのミュージシャンのアルバムジャケットを手掛けている。夢を掴んだという実感が沸かないと言いつつ、この目まぐるしい変化を、Soraは冷静に見ている。

「作品には、自分の個性や世界観がまだ統一されていない。憧れるアーティスト、サム・スプラッドのように作品を一目見ただけで、Sora Aotaの作品だと言われるようになりたいですね。それには、もっと作品を作るしかないです」

作り上げた作品をSNSにアップすると、海外のフォロワーからコメントが届く。フォロワーは海外のデザイナーたちが多い。

自分と同じように作品をミュージシャンに売り込む彼らは、いわばSoraにとって強敵。彼らのSNSの作品をチェックするたびに、世界のアートシーンにはすごい才能を持つデザイナーが無数にいると痛感する。「負けていられない」と自身を追い込む。

制作の拠点は、これまで通り生まれ育った福島の実家だ。ホームタウンを当面離れるつもりはないという。

家族も、友人たちも、ラップミュージックを聴いたこともなければ、「トリッピー・レッド」と言っても誰だかわからない。Soraが世界で活躍するアーティストであることにもあまり気にかけていない。これまで通りの何も変わらない日常の中、自分の世界に没頭できる環境が心地いい。刺激を求めて東京や海外に出るという選択肢にも、今のところ関心はないという。

「あまり先のことは考えたことはなくて、何も考えないで夢中にやっていたら、ここまで来たって感じです。今は、その時その時でやりたいことができればいいかな。何したいとか、どこかへ行きたいとかあんまり欲はわかないというか。好きなデザインで生活ができていればいい。それで満足です」と、Soraは気負いなく語った。

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そら・あおた/けーつー◎2002年生、福島県生まれ。国内外の有名アーティストのジャケットやアートワークを手がける。アーティストにSNSで作品を売り込んで自ら道を切り開き、地元・福島を拠点に活動を続けている。

文=中沢弘子

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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