日本発「世界を変える30歳未満」の30人を選出するプロジェクト「30 UNDER 30 JAPAN」。
今年、ダイバーシティ部門の受賞者として選ばれたサリー楓(29)は、Netflixなどで配信するドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』に主演するなど、トランスジェンダーのアイコンとして知られるが、実は、建築設計国内最大手の企業に勤務する建築家でもある。
社会的なジェンダーを変えた新世代の企業人は、建築・都市デザインでも越境者を目指すという。彼女が行き着いた「自分の居場所」とは。
「建築プロジェクトってさまざまな問題が起きます。融資が決まらず予算が足りないとか、敷地が買えないとか。大小のハードルをカミングアウトしていくのが日常の世界。自分のあり方をカミングアウトしてきた私には“合っている”場所だと思います」
サリー楓は2019年に建築設計国内最大手の日建設計に就職し、現在は建築・都市デザインを手がけるNIKKEN ACTIVITY DESIGN labに所属。その就職活動を始めた2017年に、社会的なジェンダーを女性に変えた。ちょうど慶應義塾大学大学院で建築を学んでいた時だ。
「ジェンダーを変える行為には、いろいろな調整が必要です」と楓。在学中なら先生や友達に驚かれないタイミングでどうカミングアウトするか。就職活動なら、どのタイミングで会社に説明するか。進学、就職、転職など自分の属する環境が変わるタイミングで告白する人が多いという。
楓もタイミングで悩んだが、僥倖(ぎょうこう)だったのは大学院のキャンパスは外国人が3分の2を占め、ゼミ生も理解があり、研究室の先生も米国留学経験があってフラットな視点があった。「そんなリベラルな環境でしたから、カミングアウトしても皆が『あ、そうなんだ』であっさり受け入れてもらえました」。
LGBTQという言葉が日本社会に浸透していなかった時代、多くの人がカミングアウトのために会社や学校を辞めたり、転校したりしていたと楓は言う。「自分の所属するコミュニティの人たちを説得するより、所属コミュニティを乗り換える方がたやすかった時代でした。そんな状況を変えたくて、自分は活動を始めました」
トランスジェンダーであっても、自分の属するコミュニティーで普通に生きていける社会をつくる覚悟が生まれ、腹を括った。
インドで一目惚れして買った青と金色のサリーを身につけてモデル撮影をしたとき、初めて「自分らしさ」を感じて胸がいっぱいになり、そこから「サリー楓」という名前でLBGTQの認知を高めるためのモデル活動を始めた。