2018年には、ヘアケアブランド「パンテーン」のキャンペーン「#PrideHair」にも登場。自身の家族にジェンダーを変えたと告白するドキュメンタリー映画『You Decide.』(邦題『息子のままで、女子になる』)の製作に協力し、主演を務めた。「その映画の撮影で初めて両親にきちんと自分の性認識を伝えられました。とても厳格な父で昔から苦手でしたが、いつかはちゃんと話さなければと思っていました」
大学生以下の若い人は、カミングアウトしたくても親の保護下で生きているケースがほとんどで、自認する性をカミングアウトしてもその後の関係性に不安が残る。「悩みましたが、両親とどう向き合うかを世の中にちゃんと見せなければ」と思ったと、両親に映画出演を依頼した理由を話す。
撮影現場で6年ぶりに会った父は「頭では理解できるが、息子として18年間も育ててきたので、受け入れ難い」と話した。そこで楓は「カミングアウトされる側もLGBTQ問題の〈当事者〉なんだ」と気がついた。そんな親にこそ見てもらいたいと発想が広がったという。敬遠していた父だったが、真実の対話を避けずに映画に出てくれたことに楓は「本当に尊敬できる人だと、初めて思いました」
小学2年生のころ、外で男子と遊ぶのが苦手で、好きな建物の絵を描くことで昼休みや放課後をやり過ごした。学校の窓から見える街並みや建物を描いた絵は賞を取り、周囲にほめられて「自分の居場所ができた」と感じた。それが建築家を目指す発端となったという。
NADは「Transboundary Design(越境するデザイン集団)」を企業コンセプトに掲げる。先が見えない時代に複雑化する社会で、どのような建築や都市をデザインしていくかを考える専門家集団だ。楓はさまざまなステークホルダーの利害や意見を越境=トランスできる発想が不可欠だと指摘する。
「私の就活のときも、会社は『LGBTQにまだ取り組んでいないが、対応が必要なので二人三脚で取り組んでほしい』と正直に打ち明けてくれました。そこが誠実でいいと思ったんです。ジェンダーの越境を経験した私には、非常にやりがいを感じる職場です」と、楓は実に楽しそうに話していた。
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サリーカエデ◎1993年生まれ。幼少から建築に興味を持ち、慶應大学大学院で建築を学ぶ。日建設計の都市・空間デザインを提案するNADにてコンサルタントに従事。
Forbes JAPAN 2022年10月号のP60において衣装クレジットに間違いがありました。正しくは以下の通りです。ドレス110000円(3.1 フィリップ リム/3.1 フィリップ リム ジャパン ︎03-5962-7061) シューズ・スタイリスト私物