医学誌『Lancet Infectious Diseases』に2022年8月11日付けで発表されたこの観察研究では、ファイザー製とモデルナ製のmRNAワクチンを接種した妊婦グループ、同じくワクチンを接種した同年齢の妊娠していない女性の対照群、ならびにmRNAワクチン未接種の妊婦グループを対象に、出現した副反応を比較した。
その結果、ファイザー製またはモデルナ製の2回目のワクチン接種を終えてから1週間以内に、体調不良で仕事を休んだり、頭痛や倦怠感などの症状が出現して医師の診察を受けたりする必要があった妊婦は7.3%だった。それに対して、同年齢の妊娠していない女性が、ワクチン接種を終えてから1週間以内に同様の症状が出た割合は11.3%だった。
2回目のワクチン接種を終えた妊婦に最も多く見られたのは、全般的な体調不良、頭痛、片頭痛、呼吸器感染症などだった。
この研究は、ワクチン接種済み妊婦の比較対象として、ワクチン未接種の妊婦と、ワクチン接種済みの妊娠していない女性の両方を採用した初めての研究のひとつだ。比較対象となった3グループすべてで、専門的な診察が必要となるような深刻な健康被害の発生率に著しい差は見られなかった(「2回目接種のあと、前述したような副反応が生じた妊婦」は7.3%。「ワクチン未接種の妊婦」で同様の健康問題が生じた割合は3.2%)。
ただし、サンプル集団の大部分が白人で占められていたことが、この研究のひとつの限界であると、研究チームは指摘している。
妊婦は、妊娠していない女性よりもワクチン接種率が低い。それは、安全性を懸念しているからだ。従って今回のような研究は、ワクチン接種が引き起こし得る副反応や、ワクチン全般の安全性について情報を提供するうえで有益だと、研究論文著者のマニッシュ・サダランガニ(Manish Sadarangani)は声明で述べている。サダランガニには、カナダ・ブリティッシュコロンビア州小児病院研究所(British Columbia Children’s Hospital Research Institute)のワクチン評価センターでセンター長を務めている人物だ。
妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすく、入院や人工呼吸器の使用が必要になったり、死亡したりするリスクが増す。その原因は、妊婦の免疫システムや心臓、肺の状態に生理学的な変化が起きることにあると、研究は指摘する。さらには、妊婦が新型コロナウイルスに感染すると、有害な健康転帰リスクも増し、高血圧や子癇(しかん)前症、胎児の発育不全や早産などが起こりやすくなる。
にもかかわらず、ワクチン接種が始まった当初は、妊婦の接種がなかなか進まなかった。研究チームは、データ不足がその原因だと述べる。また、妊婦へのワクチン接種の安全性を巡る誤った情報も、ワクチン接種を躊躇する人の増加につながった可能性がある。
米疾病対策センター(CDC)のデータを見ると、米国では妊婦のワクチン接種率がここ1年で伸びている。3回のワクチン接種を完了した妊婦は、2021年7月半ば時点では約45%だったが、2022年7月末には71%だった。
新型コロナウイルスのmRNAワクチンは妊婦にとって安全性が高く、接種をしても流産や早産、出産での問題発生リスクの上昇につながらないことを示す研究は増加傾向にあり、今回の研究もそこに加わることになる。
一部の研究では、妊娠中に新型コロナウイルスのワクチンを接種した場合、抗体が胎児に移行する可能性が示唆されている。ある研究では、妊娠中にワクチンを接種した母親から生まれた生後6カ月の赤ちゃんのうち、57%が抗体を持っていたのに対し、妊娠中に新型コロナウイルスに感染した母親から生まれた赤ちゃんのうち、抗体を持っていたのは8%だったことがわかった。