ビジネス

2022.08.25 08:00

Web3起業家 渡辺創太、業界の最先端をいく27歳が描く未来


扉を押す行動力


独占を嫌うのは、学生時代の経験が大きい。大学受験では東大に2回落ちた。自分を見つめ直すため、1年生のときにインドへ。半裸で物乞いする少年を見かけて衝撃を受けた。

「日本の人口は世界の1.4%。僕はそこに生まれただけで幸せだなと。そうじゃない人のために何かしたいと思いNPOで働きました。ただ、もっとレバレッジをかけないと世界は変わらない。より早く社会にインパクトを与えられる起業家を選びました」

魅力的な領域は複数あったが、特に惹かれたのは、誰でも国や通貨の壁を越えて金融などのシステムにアクセスできるWeb3。シリコンバレーに渡り、インターンさせてほしいと100社にメールを書いた。

「5件返ってきて一社で働けました。一見して重く見える扉も、片手で押すと軽く開いたりする。当時、僕は英語が下手で技術のこともわからなかったけど、扉を押す行動力だけはあった」

イーサリアム共同創業者ギャビン・ウッドを中心に設立された「Web3ファンデーション」スイスオフィスにもアポなしで押しかけた。「会えるまで帰らない」。日本のWeb3事情を知りたかったのか、メンバーは熱い議論に加えてくれた。

世界の盛り上がりに比べると、当時の日本は無風だった。いますぐ動かないと、Web2に続いてWeb3でも日本は遅れる。その危機感から、帰国後に起業した。

実は1年後、本社をシンガポールに移している。原因は、保有するトークンも課税対象になる日本の法人税制。納税のためにトークンを大量売却すれば市場が崩壊するため、海外に出ざるをえなかった。移転した現在は、日本の税制は経営に影響しない。ただ、渡辺は税制改革の必要性を発信し、政治や行政に働きかけている。その姿は、自分の利益さえ守れたらいいという経営者とは違う。果たして、渡辺は何者になりたいのか。最後に自社のトークン名に絡めてこう答えてくれた。

「Astarはア・スター、つまりひとつの星です。『創太にできたなら自分にも』とみんなに思ってもらえるように、歴史を切り開いていけたらいいなと考えてます」


わたなべ・そうた◎1995年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。シリコンバレーのブロックチェーン企業での勤務を経て2019年にステイクテクノロジーズを創業。

text by Kei Murakami | photograph by Munehiro Hoashi (AVG VST) | styling by Kazumi Horiguchi

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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