宅配事故「8割増」の恐怖。原因は参入の低障壁か、契約切り回避か

Alistair Berg / Getty Images


プレッシャーを背負う初心者ドライバー。後方の確認の取れない車内


生活の大きな収入の柱の契約があっけなく解除になってしまう可能性を考えれば、時間内に荷物を配りきらなければならないプレッシャーは大きいと想像できる。加えて技術のままならない宅配初心者のドライバーまでもが、同じプレッシャーのもとで公道を走るのだ。

ちなみに荷室は荷物でいっぱいになり、積み方や車両によって後方は見えていない。場合によっては、助手席にまで積まなければならない荷量を任せられることもあるようだ。プロのドライバーなら問題ないのかもしれないが、参入障壁の低さを考えれば危険ではないだろうか。

実際に事故を起こしたドライバーからも「慣れていなかった」「急いでいて、よく見ていなかった」という理由が挙げられている。「不注意」の一言で片付ければ、そうなのかもしれない。しかし事故が増加している原因を各ドライバーの責任だけと捉えるのは、無理があるといわざるを得ない。

「インボイス制度」による逆風、一方でドライバー確保強化の兆しも


2023年からは「インボイス制度」が始まり、免税事業者であった個人事業主も税金を支払わなければならない状況になりそうだ。

月に数万円の利益が減るとなれば、生活をおびやかす可能性があり、アマゾンフレックスに限らず宅配ドライバーの焦りにもつながるだろう。疲れた体に鞭を打ち、長時間労働を自ら選択する人も増えると想像できる。更なる逆風になるだろう。

一方でアマゾンは2022年中に配送拠点を18拠点新設するとし、アマゾンと委託契約を結んでいる運送会社「丸和運輸機関」もM&A(合併・買収)によりEC物流を強化していくと発表した。配達の担い手が増え、荷量が緩和されることを期待したい。

安全確保における企業の社会的責任


宅配ドライバーの働き方に業務委託が多いゆえに、求められる業務量が過剰になってしまっている。雇用関係を結んでおらず、責任逃れも可能とはいえ、事故を招くような仕事量を課すのは企業の社会的責任としていかがなものだろうか。

安全確保の面において、ことドライバー業に携わる人たちに無理をさせることは禁物だと筆者は考える。子どもたちが安全に道を歩けるよう、いち母親としては願うばかりである。



田中なお◎物流ライター。物流会社で事務職歴14年を経て、2022年にライターとして独立。現場経験から得た情報を土台に、「物流業界の今」の情報を旺盛に発信。企業オウンドメディアや物流ニュースサイトなどで執筆。

文=田中なお 編集=石井節子

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