中学生が東工大教授に質問 純粋数学はなぜもう「ポケットに入っている」のか?

東京工業大学理学院数学系教授 加藤文元氏


楕円曲線で計算して、従来の暗号技術の脆弱さを解決する


加藤教授:大変大雑把に言ってしまうと、楕円曲線暗号は、「xが与えられて、yを計算するということは比較的簡単でも、yを与えられてxを計算せよ、は難しい」ということを利用する暗号の考え方です。そして、その難しさの分だけセキュリティが強くなるのです。

いわゆるDNT(Do Not Track)問題というのがあり、RSA暗号(「桁数が大きい合成数の素因数分解問題が困難であること」を安全性の根拠とした公開鍵暗号の一つ)が考案され、使われていたのですが、楕円曲線暗号は同じことを、RSA暗号のように整数でやるのではなく、楕円曲線上のもう少し難しい数の体型で行って、RSA暗号よりセキュリティの高い暗号を実現しようとしているわけです。

具体的には、楕円曲線は幾何的な構造でいえば、平面3次曲線──平面上に描かれた3次曲線──なのですが、その曲線上の点が、たし算、かけ算のような構造を持っているのです。

その構造に関して対数問題を立てるとそう簡単には解けない、という状況が作られる(「yの2乗イコール、「4かけるx3乗」マイナス、g2xマイナスg3」と板書)。



なぜxの3乗に「4」がかけられているかは、ひとまずあまり深く考えなくて結構です。ここで「g2」とか「g3」とかというのは、実は「アイゼンシュタイン級数」というものと関係しているのですが(取材班、ざわつく)、例えば複素数のような「ただの数」です。

条件は、3次方程式、「4かけるx3乗」マイナス、g2xマイナスg3 = ゼロ」は、重根、重解を持たないこと。この時に定義される曲線のことを「楕円曲線」というのです。

(取材班、再びざわつく)これは、楕円曲線の定義式の中でも「ワイエルシュトラスの標準形」といわれている書き方で、楕円曲線を説明する場合はこの方法が、比較的わかりやすいやり方なのですが──。

取材班:先生、複素数って何ですか?

加藤教授:2つの実数a,bと虚数単位を用いて表すことのできる数のことなのですが──。今はあまり気にしなくて大丈夫です。この式は形の上だけでいうと、左辺はxの3次式ですが、係数g2は2次だと思うと、それかけるxで2+1=3次、定数g3も同様に3次の量だと思えばそれだけで3次で、どの項の次数も3次に合わせてある、という形で書かれているので、このような不思議な記号になっているのです。



取材班:g2というのは、gの2乗という意味ですか?
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文=石井節子 撮影=帆足宗洋(板書以外)

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