こうして段階的に農法を変えていった結果、2018年から2020年頃には、95%程度ビオディナミ農法を達成できていたため、翌年の2021年にオーガニック認証の申請に踏み切ったのだ。
「土壌が健康になりエネルギーに溢れるという変化を感じました。2021年はブドウの病害のリスクが高かったのですが、ビオディナミ栽培のブドウはより耐性があると感じました」とニコラさん。長い時間かけて畑を根本から改善していたことで、2021年という難しい年にも対応ができたのだろう。
ブレンドで造るボルドーのワイン
ボルドーの赤ワインは、複数のブドウ品種をブレンドして造るが、それには意味がある。ブレンドすることで、それぞれの品種が持つフレーバーが重なり合い、複雑味が増す。さらに、ブドウ品種によって、成育サイクルや収穫の時期が異なるので、その年の天候条件をリスクヘッジできるという利点もある。
ピション・ラランドでは、カベルネ・ソーヴィニョンに加えて、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドの4品種が植えられている。
主となるカベルネ・ソーヴィニョンは、「タンニンと骨格があり、スケルトンの役割」だとニコラさんは説明する。
「メルローがワインを肉付けし、フレッシュさをもたらします。ただし、肉付けしすぎて、大きくなりすぎてはいけません。カベルネ・フランはエレガンスや華やかな香りが特徴で、今後増やしたいと考えています。プティ・ヴェルドは、パワーや色、アルコール度、スパイシーさがありますが、ボリュームが出過ぎてしまうので、最近ではあまり使っていません」
ヴィルジニー伯爵夫人(Virginie de Pichon Longueville, Comtesse de Lalande)の自画像(左上)とニコラ・グルミノー氏
ニコラさんが就任してから、ブドウ品種ごとの個性をより尊重し、小区画に区切り、より適切なタイミングでブドウを収穫し、より細分化した、品種ごと、区画ごとの醸造を徹底した結果、「ワインの正確さが増した」と言う。
さらに、要となるカベルネ・ソービニョンについて、「収穫の際に、 酸度と糖度といった数値の分析だけではなく、タンニンの成熟度がポイントです。タンニンが完全に成熟するまで待つのです。メルローに求めるものはタンニンではなく、フレッシュさやアロマの複雑性。収穫を待ちすぎるとフレッシュさが失われ、熟しすぎたジャムのようなニュアンスが出てしまうので、早めに収穫します。
もちろんワインの香りや味わいは大事ですが、カベルネ主体の左岸のワイン醸造家としては、タンニンのストラクチャが最も重要だと考えます」