ビジネス

2022.07.19

薬剤師不足をアプリで解消。薬学部のない大分県からの挑戦

薬けん代表取締役 野中 牧

薬剤師の働き方は一般には常勤かパートタイムの2択だ。そんな常識に、大分県から風穴をあけようと取り組む人がいる。薬剤師で薬けん代表の野中牧だ。

野中が運営するのは、働きたい薬剤師と、薬剤師不足を解消したい薬局や病院とをつなぐアプリ「ふぁーまっち」だ。薬局や病院は、人手が足りない日時や薬剤師への要望などの情報を有料で掲載。常勤や一般的なパートタイムでは働けないが、月数回、あるいは短時間なら働けるという薬剤師は薬剤師免許証などを登録したのち、勤務したい薬局や病院にリクエストを送る。信頼を担保するため、登録時には薬けんが薬剤師や薬局、病院と面談を行う。

開発のきっかけは、野中自身の原体験にある。出産後、薬局で働いていたが、子どもの体調不良で急な欠勤や遅刻・早退を余儀なくされることが増え、「職場に対する申し訳なさと働き続けたい思いとの間で葛藤していた」という。「大分県には薬学部がなく、慢性的な薬剤師不足。薬剤師仲間にも、休みを取りにくい、子どもの行事に参加できないなど、仕事と子育ての両立に悩む人が多かった」

そこで、子育てや介護、持病などを理由に働いていない薬剤師が、休みを取りたい薬剤師の代替要員として働ける仕組みづくりに着手した。だが当初は、業界では新たな取り組みのため、一筋縄ではいかなかったという。

そんな野中に転機が訪れたのは2020年3月のこと。大分県ビジネスプラングランプリで優秀賞を受賞し、大分県薬剤師会と協定を締結。県や薬剤師会の後押しを受けながら同年10月にふぁーまっちをリリースした。22年3月時点で、ふぁーまっちに登録している薬局・病院の数は45。最近は福岡県や神奈川県、福島県など、大分県外からも薬剤師の登録があるという。

「今後は全国の薬剤師の働きやすさを向上しつつ、薬剤師会と協力しながら医療機関の現場の声を反映させたDX推進も支援したいです」


のなか・まき◎大分県在住。2004年に薬剤師免許を取得し、薬局や病院に勤務。その経験を生かして17年10月に薬けんを開業し、複数の人手不足の薬局や病院で勤務する薬剤師として活動。19年に薬けんを株式会社化。20年10月に薬剤師と薬局をつなぐアプリ「ふぁーまっち」をリリース。

文=瀬戸久美子 写真=佐野妙子

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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