経済・社会

2022.07.08 19:30

【安倍元首相死亡】多くの課題はさらに先送りの可能性


暴力によらない格差是正を


背景には日本での格差の拡大もあるだろう。日本が貧しくなっている話は多くの国民が嫌になるほど共有しているようだ。一方で、一部のモノやサービスの価格は2年前になかったくらい高騰している。例えば、15万円のお寿司とか一泊20万円の旅館とか。億ションどころか三桁億ションの高級マンションも出てきている。お金持ちのオプションは2年前よりさらにラグジュアリーなものになっていると感じた。日本にも相当なお金持ちが増えている。世界の変化の流れに沿った人たちかもしれない。このままいけばさらなる格差が拡大するかもしれない。

人類の歴史をみれば、とても賛同できないが、事実として、暴力しか格差を大幅に是正してこれなかった。帝国の崩壊、戦争、革命などが起こって初めて蓄積された富が広く一般に共有されるようになった。ローマ帝国の崩壊、フランス革命、ロシア革命など枚挙にいとまがない。

日本でもそうだ。戦争は大嫌いだし、今でもあの第二次世界大戦はないほうがよかったと思うが、しかし同時に、もし日本が戦争に負けなかったら、いまだに大日本帝国憲法のもとで大日本帝国が続いているわけだ。そうなれば土地の私有制など夢のまた夢で、財閥が経済を牛耳り、トヨタやソニーやホンダなどのスタートアップも生まれるわけもなかった。大日本帝国のもとの日本は今よりずっと不公平で貧しかった。

今度こそ暴力によらず、日本や人類が格差をどうにか是正できるようになってほしい。

警備強化の費用捻出、そのために──


それはそれとして、政治家や候補者が未来のために本当にやるべき苦い薬について思い切って街頭で話せなくなることが最も怖い。国民にとって厳しい課題に取り組めないがゆえに日本の状況は悪化していく。そうなったときに政治家は成功者や外国人を悪者にしていくだろう。そうなると成功者は無念の思いで日本を去り、日本の稼ぐ力は劣化する。外国に対しても鎖国の継続が続けば、入るべき観光収入や日本への投資も細り、日本を改革する最後の原動力も失われるかもしれない。

日本の政治家は「問題の裏返しが答え」だと思っているので、政治家の警備を強化にまず取り組むだろう。それもいいが、タダではない。その費用捻出として政治家の特権をすべて放棄すべきだと思う。肝心の課題に全く結果を出していないどころか、問題を悪化させ続けている日本の政治家に、文書交通費やJRパスとか公設秘書とか公用車とか払う気がする国民はいないだろう。パパ活や不貞行為に使われている現状が報道されたのにそこは放ったらかしだ。そこから始めよ!

シンガポールでは政治家や官僚の待遇の一部は経済成長に連動している。人口減らし続けて経済停滞させて、つまり国力を落とし続けていて、「何がボーナスだ!」 「何が文書交通費だ!」 「ええ加減にせえ」との怒りこそまず理解すべきだ。

国民に厳しいことはできそうもないが、だからこそ未来は相当厳しくなる。そうなる前にせめて自分に厳しくいってほしいよ、日本の政治家よ!せめてそれくらいはやってほしいが。思い切り間違ってできる限り外れてほしい。

文=田村耕太郎(ミルケンインスティテュート アジアフェロー/国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院 兼任教授)

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