しかし、2022年7月1日、数カ月の施行遅延の後、米国人が医療サービスを探す方法や治療に支払う金額をひっくり返しかねない新ルールが発効した。
Centers for Medicare and Medicaid Services(CMS、米国の公的医療保障制度の運営主体)が発行した「保険適用の透明化最終規則」(Transparency in Coverage Final Rule)は、医療保険業者が適用するサービスや品目の価格を公表することを義務づけている。
保険業者は適用されるすべてのサービスと項目に関して、協力提供会社と交渉した価格、およびネットワーク外提供者のアラウド・アマウント(allowed amounts)とペイド・アマウント(paid amounts)も報告に含めなくてはならない。アラウド・アマウントとは、あるサービスについて保険業者が支払う最大金額であり、ペイド・アマウントは実際に請求した金額である。
つまり、この情報により米国の消費者は自分の医療保険プランが支払われる対象について今よりも明確に知ることができる。これは保険会社の提供者ネットワークに参加していない医師を受診する場合でも同様だ。この情報があれば、患者は理論的にどの医療機関を受診するかを十分な情報に基づいて判断できるようになる。
さらにこの情報を利用することで、保険会社から払い戻される金額は謎ではなくなるため、利用者は自己負担額をより正確に把握できる。費用が発生する前に自己負担額を知ることは、米国人にとって長年欠けていた透明性を与えることだ。
この新しい保険透明性規則は、2022年1月1日に制定された一定のサービスに関して消費者が予想外の請求をされることを防ぐ、No Surprise Act(医療費不当請求禁止法)に続くものだ。医療費不当請求禁止法は、民間医療保険事業者が、ネットワーク外の請求書に関して、保険プランのネットワーク内で提供されている医療サービスを受けた場合と同じ料率で保険適用することを義務づけている。
理論的に、このレベルの透明性には医療費を引き下げる効果がある(ただし一部の経済学者は、報酬が低いと感じている医療従事者に値上げを促す効果もあると警告している)。医療保険業者が医療従事者と交渉した料金が丸見えになれば、従業員の医療保険を支払っている企業は、保険業者との交渉を有利に進められるかもしれない。
最近のRANDの調査によると、民間保険会社と雇用主が病院に支払う料金には大きな開きがあり、平均すると同じ医療サービスに対してメディケアが支払った金額の2倍以上だった。別の調査結果では、処方薬の購入に保険を使わずに現金で支払うと、4分の1近くの場合に消費者は節約できた。こうした細かいレベルのデータは、低い料金を要求するきっかけを企業に与えるだろう。