「僕の目的は効果のある寄付をすることだ」
スティーブ・ジョブズは自身のシンプルで洗練された製品にこだわっていたし、イーロン・マスクは自身の事業が人類を救うと主張している。しかし、サム・バンクマン=フリードは違う。「寄付するために稼ぐ」という信条から暗号通貨のゴールドラッシュに参戦した。始めはトレーダーとして、続いて取引所の創設者として、ただ金もちになれることがわかっていたというだけの理由で。何か別の方法で─例えばオレンジジュースの先物取引で─もっと大金をためられると思ったら、暗号通貨から手を引くか問われると、「ああ、引くね」と即答する。
バンクマン=フリードの暗号通貨取引所FTXは、トレーダーがビットコインやイーサリアムなどのデジタル資産を売買できる場で、昨年7月にはコインベース・ベンチャーズやソフトバンクなどから9億ドルを資金調達し、その評価額は180億ドルになった。また、暗号通貨投資家がひと月に手がける額面価額3兆4000億ドル分のデリバティブ取引(主に先物とオプションだ)の約10%を扱っている。FTXはこうした取引の平均0.02%を手数料として手に入れており、この1年で約7億5000万ドルのほぼリスクフリーの収益を─そして3億5000万ドルの利益を─上げている。それとは別に、バンクマン=フリードの暗号通貨取引会社のアラメダ・リサーチも、昨年、時宜を得た自社の取引によって10億ドルの利益を計上している。バンクマン=フリードは、最近ではテレビにも出演するようになり、ビットコインの価格や規制、デジタル資産の未来について自身の見解を述べている。
「業界にとってはとても奇妙で落ち着かない、はざまの時期なんだ」と語る。「世界の半数の国で先行きが極めて不透明な状態だからね」
6年前には、バンクマン=フリードはまだ1ビットコインの暗号通貨も購入したことがなかった。それが現在では、純資産額225億ドルで、マーク・ザッカーバーグを除けば、歴史上、これほど若くしてこれほど金もちになった人間はほかにいない。皮肉なのは、彼が暗号通貨の「伝道者」ではないということだ。ほとんど信者ですらない。何より金のために働く人間であり、可能な限りの大金を稼ぐことに心血を注いでいるが(方法はあまり問わない)、すべてはその大金を寄付するためだ(寄付先や寄付時期ははっきりしていない)。