その象徴が、欧米で法制化が進む「修理する権利」の牽引役として知られる米iFixitのカイル・ウィーンズだ。ベンチャー企業が政府や市民を巻き込んだムーブメントを起こし、世界の巨大メーカーまでを突き動かせたのはなぜなのか。Forbes JAPAN独占インタビュー。
2003年、カリフォルニア州のある大学の学生寮で、ひとりの学生が壊れたiBookを前に途方に暮れていた。幼少期から修理好きで、自分で分解して直そうと思ったが説明書には修理方法は書かれていない。メーカーに依頼すると高額になる。iBookを所有しているのは自分なのに自分で修理できないのはおかしくないか。
それから19年。いま、彼ほど勝利をかみ締めている人物はいないだろう。ひとつには、コロラド州が、これまで消費者に認められていなかった“修理する権利”に風穴をあけたからだ。州知事が、電動車椅子の所有者に自分で修理することを認める法案に署名したのである。
これまでは、メーカーに修理を依頼するしかなく、所有者が何週間も不自由を強いられることもあった。さらには、ニューヨーク州でも法案が可決、2023年半ばから電子機器を販売するメーカーにパーツやツール、修理マニュアルを提供することが義務付けられることとなったのだ。米国の少なくとも25の州で消費者に修理する権利を認める法案が検討されている。
法制化への道筋を切り開いてきたのが、現在、電子機器の修理情報を提供するオンラインコミュニティの運営や修理用パーツの販売で成長しているiFixit・CEOのカイル・ウィーンズ、冒頭の学生だ。同氏は消費者や政治家、NGOのみならず、他国の政府をも巻き込みながら修理する権利の獲得に向けて社会的な合意形成を図り、修理を取り巻くエコシステムに大きな変革をもたらそうとしている。修理する権利の旗手はどのようにして修理を取り巻く壁を打ち破ってきたのか?
「ここまで来るのには忍耐が必要でした」。ウィーンズ氏は19年間の道のりをしみじみと振り返る。冒頭の苦い経験がバネとなって大学の学生寮で友人と修理のオンラインコミュニティを立ち上げたこと、電子機器の修理用パーツ、ツール、マニュアルを組み合わせた修理キットがヒットしたこと、そして修理する権利を消費者が得られるよう世界各地でキャンペーンをしてきたこと。
現在、「世界最多」の8万件以上の修理マニュアルを誇る同社のサイトは、12カ国語に翻訳され、世界で月800万のユーザーが来訪。米国のほか、ドイツ、カナダ、オーストラリアにも拠点をもつ。
ウィーンズ氏の忍耐を支えてきたものは何だったのか?その答えは同社広報の土井みどりの一言に見いだことができる。「彼には若かりし日に訪ねたアフリカで目にした光景が焼き付いているんです」。
その光景とは、子どもたちが生活のためにゴミの山の上を歩き、有毒物質も含まれているような電子機器を集めている姿だ。修理されることなく、次から次へと買い替えられて増えていく電子機器というゴミ。アメリカ人の携帯電話の平均使用期間をご存じだろうか?わずか34カ月なのだ。世界的にも、電子機器の大半がゴミ処理場行きになっている。