ビジネス

2022.06.24 10:00

GAFAM、欧米政府、そして市民を動かした「修理する権利」旗手の世界戦略とは




「新しい物は買わず、いかなる物も修理して使えるようにしなければならない」

同氏はそんな哲学の下、メーカーのドアをたたいた。修理しやすい電子機器を提供するメーカーに緑のエコステッカーを付与するというインセンティブを提案したのだ。しかし、メーカー側の反応は鈍いどころか敵対的だった。「アップルはインセンティブを拒否、バッテリー交換が簡単にできるようにするくらいなら、完全にスタンダードを変更すると言い張りました」。

メーカー側の協力が得られないとわかったウィーンズ氏は、法律に注目するようになった。メーカー側が独占している“修理する権利”を消費者も得られるよう、消費者や議員、NGO、海外の政府を巻き込んでキャンペーンを始めたのだ。国際環境NGOのグリーンピースとも組んで17のメーカーの44の電子機器を分解し、修理のしやすさを評価した『2017年のリペアビリティスコア』(2017年当時)をつくった。

iFixitは分解レポートを出すことでも知られるようになったが、サンルイスオビスポの本社には分解専用の部屋がある。そこにはさまざまな工具や分解の仕方を撮影するカメラが並んでいる。分解が修理の肝なのだということがよくわかる一室だ。


カリフォルニア州サンルイスオビスポにあるiFixitのオフィスの様子。同社では、およそ1700㎡の広さの倉庫に5000種類のツールと1万2000種類のパーツが保管されている。

議員にも働きかけた。彼らが集まるカンファレンスにブースを出して、スマホを無料で直し、修理の重要性を訴えた。議員の反応は悪くなかった。彼らの周りにも自分で修理できないと不満を抱えている人が数多くいたからだ。また、法制化により、修理業者の雇用を生むことも彼らの心を動かした。アメリカには使用されなくなった電子機器が500万トンもあるが、その23%が修理に出されれば、25万の職が創出されるとiFixitは試算している。

しかし、メーカーの向かい風は強かった。アップルは有能なロビイストを雇い、「法案が通ればハッカーのメッカとなり、サイバーセキュリティが損なわれることになる」「iPhoneのバッテリーに穴をあけると爆発する」などと危険性を訴えた。

いまもメーカーから強い反発を受けているキャンペーンだが「潮目は変わり始めている」とウィーンズ氏の展望は明るい。昨年5月、米連邦取引委員会(FTC)が修
理する権利を支持する報告書を提出、昨年7月にはバイデン大統領もそれを支持する大統領令に署名したからだ。

「修理する権利を過激な考え方だととらえ、対処を先延ばしにしていたメーカー側は、政府が推進し始めたために先延ばしできない状況に追い込まれたのです」

SDGsが注目され、世界的に修理に対する関心が高まるなか、ヨーロッパ議会やカナダ政府が“修理する権利“を支持する法案に署名したことも追い風になっている。

iFixitがフランス政府と連携したことも象徴的な出来事だった。昨年1月、フランス政府は商品の値札に修理のしやすさを示すスコアを入れ始めたが、そのスコアの
元になったのが、iFixitのリペアビリティスコアだった。スコアは消費者の購入判断や企業の設計変更に強い影響がある。

「ある調査では、5人中4人が“好きなブランドより修理し易い商品を購入したい”と回答しました。修理不可能な0点のスコアをつけられたマイクロソフトのあるラップトップは設計が変更され、スコアを5点まであげることもできたのです」


製品の修理のしやすさを0-10で評価(下は2017年当時)
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文=飯塚真紀子 写真=ロッコ・セセリン

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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