ビジネス

2022.06.24 10:00

GAFAM、欧米政府、そして市民を動かした「修理する権利」旗手の世界戦略とは

Forbes JAPAN編集部

政府の後押しを受け、ウィーンズ氏はいま、大手メーカーとのパートナーシップの構築を進めている。これまでも、商品の生涯保障を行っているパタゴニアと組んで同社の商品の修理法を紹介したり、アムステルダムのフェアフォンと組んで修理しやすいスマホを開発したりしてきたが、ついには大手のマイクロソフト、グーグル、サムスンと協力関係を結び、修理ツールの販売開始にまでこぎつけた。

アップルも方針を転換し、修理マニュアルの提供を開始した。マイクロソフトに対しては、株主にも圧力をかけた。持続可能な社会づくりに貢献するよう企業に働きかけている株主提唱団体にアプローチし、独立機関に同社の商品の修理のしやすさを評価させることを求める株主決議を提出させた。その結果、同社を商品評価に導くことができた。

iFixitと提携する企業


ウィーンズ氏は日本のゲームメーカーにも容赦なく厳しい視線を送っている。

「ソニーや任天堂も消費者に修理というオプションを与えるべきです。製品を長く使えるようにしないと、ゲーフソフトも売れなくなり、結局、自らの不利益になるのです」

何がウィーンズ氏をつき動かし続けているのか?「多くの人は途中でキャンペーンをギブアップしたでしょう。私があきらめなかったのは、いま、チェンジしないことには、消費者の手で修理ができない世界になると危機感を覚えたからです。我々が修理にクレイジーにならなかったら、誰がクレイジーになるでしょう?」。


仕事の合間には、従業員が華麗なるヨーヨーの妙技を披露する一幕も。

修理する権利とは?
消費者が購入した、車や電子機器、家電製品などさまざまな製品が故障した際に、メーカーを通さずに自分で修理する権利。現在はメーカーが修理に必要な情報やツールなどを独占し、消費者はメーカーに依頼するしか修理する方法がほぼなかった。簡単に修理できるようになれば、修理費用の適正化や時間の短縮、購入した製品を長く使えるようになることからゴミの削減、情報公開によるイノベーションや各社の競争の促進などが期待される。

カイル・ウィーンズ◎祖父の影響で幼い頃から機械などの修理に興味を持つ。カリフォルニア・ポリテクニック州立大学卒業。専攻はコンピューターサイエンス。大学在学中の2003年、iFixitの前身の会社を同級生のルーク・スオールズと創業した。


Forbes JAPAN 2022年8月号は、新しい市場創造の手段として、規制緩和や国際標準化の取り組みなど、ルールメイキングの基本から成功パターンまでが一挙にわかる一冊。ダイキン工業やヤマト運輸、メルカリ、マネーフォワード、電動キックボードシェアリングのLuupなど、いま最も勢いのある国内外のルールメーカー約40組を公開。合言葉は、「誰にでも、ルールはつくれる、変えられる」だ。

文=飯塚真紀子 写真=ロッコ・セセリン

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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