当時、アップルの代理人を務めた弁護士のマーク・ズウィリンガー氏は、セイバーが法執行機関の「代理人」になるおそれがあると警告している。「異常で、しかも必要のない措置に思えます。私が懸念しているのは、政府機関が犯罪者の動きを追跡する必要があるたびに、今後このような手段に訴えるのではないかということです」と話す。
ズウィリンガー氏によると、当局が1789年の同法を発動したいのなら、第三者の支援がなければ手の打ちようがないことを証明する必要があるという。ディパンシュ・カー容疑者の件であれば、証明の必要性を問われる可能性がある。その一例となるのが、法執行機関は、米国税関・国境警備局のデータベースに保存されている入国に関するデータを要求できるというものだ。
また、同法のもうひとつの要件である、第三者への「負担の許容性」についても疑問が残るとズウィリンガー氏は付け加える。「ほかと関連性のない事件であれば、それほど負担はないかもしれません。ただ、もし法執行機関がたびたびこのような手段を取り始めたら、セイバーは一種の政府機関になりますよね」と語気を強める。
「武漢からNYへ飛行機移動をした」人数も割り出す──
近い将来、セイバーの貴重なデータベースは犯罪者の捜索ではなく、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止める目的で使われるようになるかもしれない。FBIが使っているのと同じデータを、新型コロナウイルスの感染拡大を監視するのに使える可能性がある。なぜなら、世界中の人々の動向に関する正確な情報を呈示できるからだ。
例えば、中国の武漢からニューヨークへ飛行機移動をしたのは何人か、どの空港で何回乗り継いだのかを調べることができる。「中国から米国に入国した人が、日本や台湾、ハワイ、グアムなどで乗り継いだかどうかを調べられるんですよ」とジム・メンゲ氏は指摘する。
ただ、セイバーの担当者から、そのような計画は一切発表されていない。
一連の秘密裏の行為は、セイバーがいかに米国当局と密接に結び付いているか、また「全令状法」の名のもとに、セイバーのシステムがたびたび容疑者を追跡するためのツールとなるのか、というさらなる疑問を呼び起こすことになる。
スタンフォード大学のインターネット社会センターで監視とサイバーセキュリティーに関する副管理官を務めるリアナ・フェフコーン氏によると、米国当局がこの法律を利用して企業にデータを提出させた回数は誰も把握していないという。「政府機関が、反対しない企業に秘密裏に令状執行へ協力するよう強引に求め続け、裁判官が政府の業務命令によってこのような令状を発行し続ける限り、我々は回数を把握できないままでしょう」と結論づけている。