FBIがスパイ活動を民間委託 20億ドル企業が請け負う極秘任務とは

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このシステムはかなり効率良く稼働することがわかり、セイバーは独立した別会社となり、アメリカン航空だけでなく、ほかの航空会社にもサービスを提供するようになった。現在は航空券だけでなく、ホテルの予約からレンタカーに至るまで、旅行に関するほぼすべてのデータを網羅している。

旅行を計画したことのある人なら、長い間セイバーのデータベースを利用してきたことだろう。このシステムは、世界中のすべての航空会社が扱う予約の3分の1以上を処理し、その旅行代金を合算すると年間で2600億ドル(約29兆6161億円)に上るが、セイバーの社員数は9000人ほどにすぎない。

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世界におけるセイバーの競争相手は、スペインのアマデウスとイギリスのトラベルポートだ。この大手3社は、世界中の旅行計画、旅程、宿泊やチケットの価格、予約、乗り継ぎ便などの膨大なデータを保有している。乗務員のスケジュール、その他の物流関連情報もデータベースで確認できる。

「彼らは巨大なデータベースを作り上げました」と話すのは、セイバー メキシコ部門の元責任者であるグロリア・ゲバラ氏だ。現在は、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の代表を務めている。彼女は、1995年から2010年までセイバーに勤務していた。当時、同社は世界の2大個人データベースのひとつを保有していたと指摘する。

「特定の旅行者がどこから来たのか、どの便に乗ったのかがわかります。飛行機の座席番号に名前も付けられます。セイバーのシステム上に、そのデータが入っているんですよ」と付け加えたのは、1994年から2004年まで同社に勤務した元副社長のジム・メンゲ氏だ。

完璧な情報提供 諜報機関「セイバー」


セイバーと米国政府との結び付きは、以前から知られていた。同社の元幹部たちは米国議会で証言したのち、大統領特別委員会のメンバーにもなっている。しかし、この協力関係は裏取引でもあった。2001年9月11日の同時多発テロ以降、米国政府機関は、重罪および軽犯罪を犯した容疑者の動きを監視するよう、同社に秘密裏に依頼し続けてきたのだ。

米国当局は長年にわたり、大手通信会社や銀行に対して、特定の人物の追跡に協力するよう要請している。例えば、電話の盗聴や、お金を引き出した場所を特定することなどだ。銀行や通信会社に依頼すると、米国の司法当局は裁判所で数種類の令状を取得しなければならない。旅行業界なら、同様のアプローチで、個々の航空会社、ホテル、ツアーオペレーターの追跡が始められる。セイバーやその競合他社のおかげで、米国当局は、たった1枚の令状を取るだけで、すべての問題を一気に解決できるのだ。

グロリア・ゲバラ氏とジム・メンゲ氏は、「フォーブス」誌の取材に対し 、世界貿易センタービルが爆破された2001年9月11日の事件後、セイバーがテロリストの動向に関する情報を当局に提供したことを指摘している。

当局がセイバーに白羽の矢を立てたのは、テロ発生後のことだった。とはいえ、同社は当局にデータを提供し、積極的に活動している。
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翻訳=神原里枝 編集=石井節子

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