18世紀にできた法律をもとに、セイバーとFBIの間で築かれた協力関係について知っている人はさらに少ない。具体的には、この法律をもとに、2020年6月に米国で懲役9年の判決を受けたロシア人ハッカー、アレクセイ・ブルコフ容疑者の情報を、セイバーがFBIに渡したというものだ。
ロシア人ハッカー、アレクセイ・ブルコフ容疑者逮捕を報じるRussian news
容疑者、スパイの監視を国が「一般企業に委託」?
米国国境警備局は、莫大な情報を収集し、出入国者を監視する。だが、当局は彼らを監視するために、もうひとつの手段を確保した。一般的知名度は低いものの実力派企業で、テキサス州に本社を置くセイバーがそれだ。
同社は、世界中の旅行者のデータ収集を手掛ける3大企業のトップに位置する。何百社という航空会社やホテルが、セイバーのシステムを利用中だ。米国政府機関はセイバーに対し、旅行者のデータ提供を繰り返し呼びかけている。当局は、容疑者の行動をリアルタイムで追跡するように少なくとも一度は要請している。セイバーの元社員は、同社が収集したデータは宝の山であり、新型コロナウイルスの感染拡大状況を監視するためにも活用できると考えている。
「市場価値20億ドル企業」の驚くべき技術
セイバーはナスダック上場企業で、市場価値は実に20億ドルを超える。
同社がいかにして巨大データベースを手に入れたかを知るには、米国旅行産業の幕開けとなった1950年代に遡る必要がある。
当時、アメリカン航空の予約担当者は、大きな丸テーブルに着き、電話を受けていた。テーブルの上には、とても複雑な造りの大型ファイルキャビネットが据え付けられていた。そしてそのキャビネットには、予約状況、販売座席数、出発時刻などの情報が詰め込まれていた。しかし、人の手によって作成されたものなので、データは正確性に欠ける部分が多く、座席数を上回る数のチケットを販売した便もあれば、逆の場合もあった。これには旅行客も大いに迷惑していた。
アメリカン航空は、予約システムをより正確かつ効率的に稼働させるため、IBMとマサチューセッツ工科大学に依頼し、迅速に更新可能な、初めての予約データベースを完成させた。このシステムは「セミオートメイテッド・ビジネスリサーチエンバイロメント(Semi-Automated Business Research Environment、半自動型業務調査環境)」と名付けられた。
のちに、システムの頭文字をとった「セイバー(SABRE)」 という名称が広く知れ渡る。1964年に、IBMの2台のコンピューターでシステムは稼働を開始した。