FBIがスパイ活動を民間委託 20億ドル企業が請け負う極秘任務とは

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2019年12月、FBIはサイバー犯罪容疑者の動向について「リアルタイム」の情報を要求したとされる。渦中の人物は、ディパンシュ・カーというインド生まれの犯罪者だ。FBIはセイバーの社員に対し、「当人に関する最新の旅行情報を、完璧に、リアルタイムに、週単位で」6カ月間提供するよう依頼した。それを受けて、容疑者の「予約と支払いの内容すべて」を提供したのだ。

ディパンシュ・カー容疑者の事件はほとんど知られていない。2019年11月の裁判所の命令によると、彼はサンディエゴのある企業のウェブサイトをホストするサーバーにハッキングした罪に問われている。この企業は、ハッキングによって5000ドルを超える損害を被った。ちなみにカー容疑者は、現在自宅謹慎中だ。2020年1月に逮捕されたが、犯行を否認している。

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セイバーは少なくとも4件の訴訟で容疑者の動向に関するデータを当局に提出しており、これはそのうちの1件である。2015年、FBIはアレクセイ・ブルコフ容疑者の捜索を開始した。彼が、盗んだクレジットカードの番号を売買できる2000万ドル規模のウェブサイト「カードプラネット」の運営者だと見ていたのである。FBIはブルコフの追跡にあたり、セイバーだけでなく、イギリスのトラベルポートにも協力を仰いだ。今では、事件のファイルの大半が非公開になっている。

2019年11月、イスラエルによってブルコフは米国に引き渡され、2020年1月に入ると、電子詐欺、個人情報窃盗、コンピューターシステム侵入、マネーロンダリングの罪を認めた(ブルコフは2020年6月末に米国でサイバー詐欺罪により9年の刑に処された──フォーブス・ロシア版より)。

セイバーは、これまでに3件の類似事件で「逮捕状の執行に協力した」とされている。同社の協力により、2017年と2019年にワシントン州西部地区で、2016年のカリフォルニア州北部地区で容疑者が逮捕された。これらの事件に関する文書の検閲は終了している。

民間企業が政府機関になる?


法律の専門家は「フォーブス」誌の取材に対し、ディパンシュ・カー容疑者の件について、こうした裏取引が水面下でどのくらい行われているかを示す証しであり、懸念事項にあたると述べている。

FBIは、セイバーをはじめとする複数の企業との交渉にあたり、1789年に制定された全令状法を根拠とした。この法律により、裁判所が発行した令状を執行する際に、米国政府機関は第三者に支援を求めることが認められている。2015年に米カリフォルニア州サンバーナーディーノの障害者施設で発生した銃乱射事件で、当局は犯人が所有するiPhoneのロック解除をアップルに強制し、翌年の2016年にこの法律が周知のものとなった。アップルから依頼を拒否された当局は、ハッカーを雇わなければならなかった。
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翻訳=神原里枝 編集=石井節子

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