世界的サイバー法学者が語る「web3の前に考えたいWeb2.0の問題点」

サイバー法学が専門のハーバード大学ローレンス・レッシグ教授 Getty Images



米連邦議会下院の公聴会で証言するフェイスブック内部告発者のフランシス・ホーゲン Getty Images

井関:ここにきて規制当局も遅れを取り戻し、規制に関する議論が活発化していますが、この動きを先導しているのがテクノロジー企業内で問題意識をもつようになった元社員であったりすることが多いです(編集部註:レッシグ教授は、2021年にフェイスブックを内部告発した元同社幹部フランシス・ホーゲン氏を法務の面で「限定的に支援」している)。当面は、個人による働きかけに頼るほかないのでしょうか。

レッシグ:まさに、“デジャヴ(既視感)”ですね。結局、歴史は繰り返されるのです。かつて音楽業界でも海賊版問題が生じた際、音楽レーベル内の一部の人が新しいビジネスモデルの可能性について提言しましたが、結局は実現しませんでした。問題は、こうした問題意識を抱えて解決しようとしている人が世界で1000人くらいしかいない点です。そして、この1000人足らずに問題を解決させようとするのはあまりにもナイーブです。それぞれが、勤めるテクノロジー企業で問題提起ばかりして、求められている業務をこなさないのなら、いずれはクビになるわけで、個人に期待できることにはどうしても限界があります。やはり、行政がきちんと役割を果たして問題解決に乗り出すべきでしょう。そして、今はその力が政府にはないことがわかっている以上、その事実を認識して作っていく必要があります。

井関:音楽業界のほかにも、リーマン・ショック(金融恐慌)以前の2000年代の金融業界でもデリバティブ(金融派生商品)などで似たようなことが起きていますね。制度がないのをいいことに、然るべき資質をもち合わせていなかったのか、リスクの認識に誤りがあったのか、どちらにせよ大きな過ちを犯しています。それと同じようなことが、いずれテクノロジー業界でも起こり得るということでしょうか。

レッシグ:本質的には同じ問題ですよ。あちらこちらの業界で複製され、そして再生産されています。それも、現在の米政府に戦略的思考が足りていないからです。長期的視点を犠牲にし、短期間で結果が出る決断ばかりを下しています。そして効果的なガバナンスには、長期的な視点が不可欠である点に気づかなければ、おしまいです。

米国で今、最も恐ろしいのが「政府など不要だ」と考える人たちが増えていることです。シリコンバレーの関係者に見られますが、「自分の面倒は自分で見るからいい」という人たちがいます。彼らのスタンスは、政府は不要で、気候変動や経済格差もインセンティブが働く企業が解決する、というものです。これなど、絶望的なくらいにナイーブですよ。社会が形成されてきた歴史についてあまりにも無知です。
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文=井関 庸介

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