世界的サイバー法学者が語る「web3の前に考えたいWeb2.0の問題点」

サイバー法学が専門のハーバード大学ローレンス・レッシグ教授 Getty Images


ローレンス・レッシグ(以下、レッシグ):いくつか重要な変化があったと思います。1点目は、インターネットという公共空間から企業が規制する「コンテンツの島」に移ったこと。私たちは、インターネットからフェイスブックとグーグルが管理する社会へ移りました。例えばフェイスブック上のコンテンツは、グーグルやアマゾン、スポティファイ上とでは異なるルールのもとで運営されています。その結果、企業がコンテンツを管理・規制するのが容易になりました。

2点目は、企業にとって規制が極めて効率的になった点です。少なくとも、規制できる範囲が広がりました。ユーチューブでは、クリエイターが著作権を侵害されたり、あるいはコンテンツの収益化を無効にされたりした場合、異議申し立てがしやすくなりました。後者の例で言えば、配信したコンテンツ内に、他者が著作権をもつ音楽が含まれていたなどが原因で、クリエイターはその動画から収益を得ることを無効にされます。これは10年前と比べたら劇的な変化です。当時は、「規制する手立てがない」と考えられていたからです。

その一方で当時の私たちが恐れていたのは、こうしたテクノロジーを過度に規制するインセンティブの大きさです。じつは本当に懸念すべきは過小な規制ではなく、過剰な規制です。思想的な自由を制限し、イノベーションの進歩を阻害する可能性があるからです。今は逆に、そうした過剰な規制のほうを心配すべき状況でしょう。例えば、日本でマンガの配信について議論した際、マンガのスクリーンショットを撮ることすら規制する声も上がりました。規制しようとする背景にある動機よりも、こういった極端な規制そのものにより注意すべきではないでしょうか。

井関:アップルがiTunesやApp Storeを導入したことでデジタルのコンテンツ市場全体が整備され、インターネット上のコンテンツ利用に対する理解も変わりました。こうしたサービスを運営するテクノロジー企業を監督することで、無法地帯だった黎明期と比べ、間接的ながらも、よりクリエイターを保護しやすくなった面もあると思います。企業の立ち位置や取り組みについてはどうお考えですか?

レッシグ:私が『REMIX』を書いていた頃にまだ顕在化していなかった問題点の一つに、「広告配信」というビジネスモデルがあります。06年頃は、広告がインターネット上の中心的なビジネスモデルになるというふうには考えていませんでした。仮にいたとしても、まだ少数派でした(編集部註:グーグルがインターネット広告配信企業「ダブルクリック」を買収したのは07年)。ところが現実には、「広告ビジネスはしない」と断言していた創業者たちが立ち上げたグーグルが、広告ビジネスの上に基礎インフラを作ることの魅力には抗えなかったわけですね。

その結果、広告配信に依存するビジネスモデルができあがってしまいました。それも、道路脇に立っている立て看板のような“受け身の広告”ではなく、ユーザー自身の嗜好に基づいて広告が追いかけてくる“攻めの広告”が生まれたのです。フェイスブックがその最たる例でしょう。フェイスブックのビジネスモデルは、ユーザーが自分自身に自信をもてないよう不安にさせるというものだからです。なぜなら、人は不安になればなるほど、自分の弱みをさらけ出すからです。そして自分自身をさらけ出せば出すほど、企業はターゲット広告がしやすくなります。だから、彼らの広告アルゴリズムはある面、ユーザーの不幸に基づいているとも言えます。
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文=井関 庸介

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