世界的サイバー法学者が語る「web3の前に考えたいWeb2.0の問題点」

サイバー法学が専門のハーバード大学ローレンス・レッシグ教授 Getty Images


井関:ユーザーのエゴや承認欲求、そして不安を食い物にしているのですね。

レッシグ:そのとおりです。心理的な弱みを食い物にしているのです。ユーザーは、ソーシャルメディアの渦の中、他のユーザーとの比較を通じて劣等感を覚えて不安になり、自分がしたことや、自分の交友関係についていっそう多くの投稿をするようになります。これは企業の思うツボです。ユーザー自身が勝手に“負のスパイラル”に落ちていく競争を始め、企業はそれでターゲット広告を打ちやすくなります。

ただ、これは社会にとっては非常に有害です。戦争や飢餓を終わらせたり、気候変動を止めたりするなどの壮大な目標を達成するならまだしも、単に広告収入を増やすためですから。これも規制がいかに足りていないかを示す、わかりやすい例です。そしてどこまで規制できるのか、疑わしい面もあります。

井関:グーグルやフェイスブックは、このビジネスモデルに依存しています。より効率的で効果的な収入源はまだ見つかっていないようですね。

レッシグ:インターネット広告配信のビジネスモデルに依存しているのは、それが最も利益率が高く、最も簡単に稼げる方法だからです。比較的少額の投資の割には利益率が高い、つまりROI(投資利益率)が抜群なのです。でも、これは決して新しい問題ではないですよね? というのも、過去には公害や環境汚染をしていた会社もROIがよかったからこそ、つまり、そちらのほうがビジネスとして割がよかったから放置していたわけです。モノを作った副産物として汚染がある、と。ところが規制が整備され、汚染を垂れ流すことへの罰則がコストの面で割に合わないものになるや、こぞって汚染対策をするようになりました。

インターネット広告配信のビジネスモデルも同じですよ。こうした“搾取”は非常に利益率が高いのです。だからこそ、規制やインセンティブ次第ではその利益率を高くも低くもすることができます。そして企業の良い点は、インセンティブさえ変えれば、指針や行動も変わるということです。会社という組織と性質には、“エゴ”がありません。自分たちのビジネスモデルに関して明確なコンセプトがあるわけでもなく、重要なのは市場の株主にリターンを出すこと。なので、インセンティブを変えれば、企業は自ずと行動を変え、儲かる領域に注力するようになりますよ。

それなのに、私はいつも戸惑わずにいられません。なぜなら、不合理な行動を取りがちなヒトとは異なり、インセンティブで動き、エゴがない企業のほうが規制しやすいからです。本来、私たちは企業に効率的な行動を取らせるよう規制するのが上手なはずです。それがなぜか、ヒトの罪に対しては厳格な割に、企業の罪に対しては寛容な面があります。でも、企業は規制に従うので厳格に規制を設けるべきです。

井関:過去には、石油業界、たばこ業界と規制されてきましたね。でも、現在の規制当局はインターネットの規制に関しては対策に苦しんでいるように思えます。シリコンバレーや、マサチューセッツ州ケンブリッジを抱える米国は、テクノロジーの中心地です。にもかかわらず、ここ数年の米議会下院の公聴会でも判明しましたが、一部の議員はフェイスブックやグーグルの基本的な仕組みすらよく理解せずに質疑をしていました。
次ページ > 規制する側が、将来的に規制される側で働きたいと考えている

文=井関 庸介

ForbesBrandVoice

人気記事