仮設パビリオンで終わらせない オランダ「緑の都市をつくる万博」

園芸エクスポ「フロリアード」


今年のフロリアードのテーマは「Growing Green Cities」。公式の日本語訳は「成長する緑の都市」だが、筆者はこの言葉に、緑の都市の促進、緑の都市を育むといった、より能動的なニュアンスが込められていると理解した。

さらに、次の4つのサブテーマ「Greening the city – more greenery(都市の緑化)」「Feeding the city – improved food supplies(都市の食料供給改善)」「Healthying the city – more conscious living(より健康な暮らし)」「Energising the city – smarter energy supplies(エネルギー供給改善)」からも、一から新しい都市をつくるというミッションを感じられる。



新しい都市構想の提案は、気候変動という地球規模の重要課題に対しての直接的なアプローチだ。オランダは、2030年までに温室効果ガスの排出量を49%まで削減、2050年までには95%を削減するという政策目標を掲げている。ますます都市化がすすみ、住宅需要がさらに高まる中での新都市の開発。カーボン・ニュートラルを実現するための緑化やインフラ整備は必須だ。フロリアードは、新たな試みをテストする機会とも言える。

近未来の豊かな暮らしとは


パンデミックにより、多くの人々が自然の脅威を再認識するとともに、ロックダウンやステイホームの苦痛を経験した反動から、自然との繋がりを欲するようになった。また、健康が脅かされたことで、改めて、健康を意識するようになった。

こうした変化を受けたこれからの都市の暮らしは、地球にとってだけでなく、人間の健康(フィジカルヘルス及びメンタルヘルス)への配慮も欠かせない。フロリアードが提案するグリーンスペースは、人々にとっての「憩いの場」としてはもちろん、食料供給の機能も担うことが期待されている。



食に関していえば、プラント・ベース(植物由来)の食品の選択肢を増やすことも、地球と人間の健康に不可欠だ。実際、アムステルダム市内のスーパーでは、ベジタリアンやヴィーガン対応のプラントベースの「肉」が豊富に販売されており、場所によっては食肉よりも売り場が確保されるほどの存在感だった。代替肉やプラントベース食品は、オランダだけでなく欧州主要都市各地でさらに一般化しつつある。

今年のフロリアードは、テクノロジーに溢れた非現実的な遠い未来ではなく、ポスト・パンデミックの豊かな暮らしをイメージさせてくれる都市博だ。同時に、気候変動、都市化による住宅不足といった都市の課題に対する明るい可能性が感じられる空間でもある。こうした前向きで楽観的な姿勢は、世界情勢が悪化しているいまこそ必要とされる。

同様のムードは、6月上旬にアムステルダム市内で開催されたデザイン会議「What Design Can Do(WDCD)」からも読み取ることができた。記事後編では、WDCDで得られた視点を紹介する。

連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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文=MAKI NAKATA

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