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2022.06.09 08:00

GAFAで数学系の人材がひっぱりだこな理由。純粋数学はもう「ポケットに入っている」

東京工業大学理学院数学系教授 加藤文元氏(撮影=曽川拓哉)


AI技術を支える、「ドーナツとコーヒーカップは同じ」の純粋数学理論


──「われわれのポケットの中」に入っている数学の例は他にもありますか。
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AI技術の元となる機械学習技術、そこに密接に関わる「トポロジカルデータアナリシス(TDA)」という分野は日本でも活発に研究されており、産業界でも多角的に活用されています。

しかし、そこで使われている「トポロジー(位相幾何学)」の中でも「パーシステントホモロジー」の考え方は、実は大変純粋な数学理論なのです。

少し説明しましょう。一般にも比較的有名な、「ドーナツの表面とコーヒーカップの表面を同じものとみなす」という数学的な考え方があります。これは20世紀に入って以降、盛んに研究されるようになった位相幾何学が取っている立場で、その中で、「不変量を計算する」ために「ホモロジー」という概念があります。これをデータ解析のために改良したものが「パーシステントホモロジー」です。
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このような、いわば「純粋の中の純粋」ともいえる数学的な立場が、現在はAI技術の元になるトポロジカルデータアナリシスに応用されている、というわけなのです。

つまり今や、「純粋数学が応用数学の基礎である一方、応用数学は実社会と交渉をもち、そこにおける問題解決に取り組む」といった簡単な図式ではなくなってきているのです。

そして、数学と他の自然科学分野との関係のしかたもまた、変わってきています。かつては数学への従来的なイメージとして、学問における「ピラミッド型図式」がありました。それは、底の方で自然科学全般を支えているのが数学であり、理論物理で、上に上がるにつれてだんだん応用に近くなる、といった図式でした。

ですが、現在ではその図式はもうありません。今は数理科学における複数の分野がみごとに関係し合っている。網目模様の世界、脳の中のシナプスのごとく、分野間のネットワークがきわめて多様につながっていると言ってよいのです。

つまり、「ピラミッド型図式」から「ネットワーク型図式」に変わってきたというわけなのです。

産業界への応用は「純粋に研究」していれば可能か


──なるほど。では、GAFAが数学人材を採用しようとしているのは、純粋数学と応用数学の垣根がなくなり、高度数学が商業活動にまっすぐ応用できるようになったから、とも考えられそうです。

ここでひとつ注意しなければならないことがあります。純粋数学を勉強してさえいれば応用スキルも自然に身につく、いずれ社会に出て実装することができる、というわけではない、ということです。

純粋数学と応用数学の垣根が崩れたからといって、数学を実社会に応用することが簡単になった、というわけではないのです。純粋な数学を実社会に応用するためには「別のスキル」が必要です。

その別スキルとは、純粋数学のリテラシーを実社会に応用しようとする「発想力」や技術と言ってよいでしょう。先ほどの「楕円曲線暗号」の理論も、実際にICカードに実装するためには、別のテクニカルな問題をクリアする必要がある。

数学者が産業界で本当に活躍するには、「純粋数学のリテラシー」と「応用のための発想」の両方を備える必要があるのです。

だからこそ、数学理論を「応用に落とし込む」視点をもった研究者は、今後ますます必要になるでしょうね。GAFAが採用しようとしているのは、そういった人材なのかもしれません。

そして、世界の中の日本を考えた場合、数学の、実社会への理論実装という「問題意識」自体がまだ育まれ始めてまもない、とはいえると思います。


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文=石井節子 撮影=曽川拓哉

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