徹底した行動療法が利用できるメディケア(高齢者向け公的医療保険制度)など、保険が適用される場合でも、対象者のうち介入を受けている割合は1%に満たない。医療介護機関は、そうした指導などを、いまよりもずっと推進する必要がある。
また、肥満はさまざまな要素からなる疾患であり、その根本原因の理解を深めるためにはさらに研究を進めなければならない。米国立衛生研究所(NIH)は2022年度に、肥満研究に12億3000万ドルの予算を配分した。かなりの金額に思えるが、NIHの予算総額450億ドルに占める割合はわずか2.7%だ。これほどの規模に達した健康危機には、それよりはるかに多くの研究資金が必要なのは間違いない。予算の倍増は、どう考えても正当化されるはずだ。
米食品医薬品局(FDA)も、肥満対策で重要な役割を果たすことができる。新型コロナウイルス感染症のパンデミックのさなか、FDAは、ワクチンや治療薬をできるだけ速やかに提供するべく、バイオ製剤業界と協力するにあたって驚くほど柔軟に対応した。そのときと同じように、肥満の新しい治療薬にも力を入れるべきだ。
だからといって、安全性に関する承認基準を下げるべきだというわけではない。ただし、肥満の治療薬を「外見を改善するための」処置とみなしてはならない。それどころか、新しい治療薬は、心疾患やがん、糖尿病に関係してくるものとして、しかるべく取り組むべきだ。
肥満の蔓延は、すぐに解決するような問題ではない。今後10年以内には、米国に住む人の50%が肥満に、20%が糖尿病になる可能性がある。がんを発症しやすい人がどんどん増え、これまでにないウイルスが世界に広がるだろう。私たちは切迫感をもって、早急に肥満という問題に立ち向かわなくてはならない。