ビジネス

2022.05.31 18:00

マインドだけでは成功しない 起業家が陥りがちな「お金の失敗」




まず「クールヘッド」から始める


──これらの素養が大切だと思われたきっかけがあれば教えてください。

サラリーマンとして働いていた時、上司に600万円ほどコストのかかる販売促進プランを提案したことがありました。私が2〜3年目くらいの若手だったこともあって上司も気前よくOKを出してくれたのですが、プランを実行する過程で周囲の先輩たちのアドバイスをすべて聞き入れてしまい、当初と全く違う内容に。「クールヘッド」で考えると絶対にうまくいかなさそうな内容に変わってしまっていたのです。

結果的にプロジェクトは失敗。この経験を通して「クールヘッド」をいかに貫き通せるかが重要だと学びました。それ以降、私が事業を立ち上げるときにはまず「理論上はこうやったら絶対うまくいく」というシンプルなロジックを「クールヘッド」で考えます。

次に実行していくのですが、その際にイメージ通りに物事が進まなかったからといって安易に当初描いた理論を否定しません。むしろ、その理論を実現するために「ホットハート」「タフネスマインド」を発揮して、粘り強く試行錯誤するのです。

多くの起業家は「ホットハート」が先行して、「クールヘッド」が足りていません。まず最初に理論を描き、それが理論上間違っていない限りは何があってもやり通すという順序が大切だと思います。

──「リーンスタートアップ」などと言われるように、頭で考えすぎず製品を出し、市場の反応を見ながらマーケットフィットを目指す考え方もあるのでは。

私もビジネスモデルは途中で変えても構わないと思います。しかし変えるとしても、新しいプランが理論上「こうやるべき」というあるべき論に立脚していることが重要です。壁にぶち当たってビジネスプランを変更するとき、多くの起業家は「できること」に合わせて方針を決めてしまうのですが、それではブレてしまいます。

現実に押しつぶされて「できること」に合わせてプランを変えるのではなく、「こうやるべき」という理論を先に考え、その理論を実現するために何ができるのか粘り強く探し続ける。この姿勢が大切なのだと思います。

──木下さんは「理論」をどのようなステップで考えていかれるのでしょうか?

当然ながら調査なども必要ですが、1番は「計算」です。

友人の経営者にも「全部思い通りうまくいったのに儲からなかった」と言う人がいるほど、案外軽視されがちな部分がこの「計算」。

2億円のビジネスも100億円のビジネスも、立ち上げ時に必要なマンパワーはさほど変わりません。限られた資金と時間を投入するとした時、本当に目の前のことに投入して良いのか? うまくいったとして、いったいどうなるのか?

概算でも良いので事前に「計算」することで、経営判断は変わってくるのかなと思います。


木下勝寿(きのしたかつひさ)◎1968年生まれ。大学卒業後、株式会社リクルート入社。その後、独立し、2000年に北海道特産品のインターネット販売を開始。2009年、株式会社北の達人コーポレーションに社名変更し代表取締役社長に就任。健康美容の分野へ本格参入し、2012年札幌証券取引所アンビシャス市場に上場(その後東証一部上場)を果たす。著書に『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』(2021年、ダイヤモンド社)

文=伊藤紀行 提供元=DIMENSION NOTE by DIMENSION, Inc. 編集=露原直人

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