ヴェネチア・ビエンナーレのNFT事情と「ウクライナ広場」に積まれていたもの

クリエイティブコンサルティング会社 Wakapedia創業者 サラワカ氏(photo by Gabriele Basilico)


ウクライナ館の「ウクライナ広場」に“積まれていた”もの


今年のビエンナーレで印象的だった展示についても紹介させてください。

正直、毎年、イタリア館は印象に残らないのですが、今年は「産業革命の終わり」をテーマとして作られていて、非常に感情が揺さぶられる空間でした。最近、イマーシブ・エクスペリエンス(没入型体験)が流行っており、アトラクションやイベントなどで使われています。


イタリア館 テーマ「産業革命の終わり」の展示から(写真提供:サラワカ氏)

イタリア館の展示ではVRなどの仕掛けはなく、1800年代の工場の雰囲気を会場全体をつかって表現しているだけです。それだけで、寂しさが伝わってくるつくりとなっていました。

工場で働く作業員の狭くて暗い部屋、綺麗とは言えない寝床、ギィといやな音が鳴るドア、いまにも崩れて歩けなくなりそうなタイルの床。空間全体から、当時の人々が抱いた「機械への夢と寂しさ」を感じました。アートは感情が動いてこそ価値が高まるもの。印象的な展示でした。

もう1つ、印象的だったのはロシア館とウクライナ館です。まず、今年はロシアのアーティストはみんな、出展を辞退しています。ミサイルや爆弾が飛び交う世の中にアートは存在しない、とのことでした。ウクライナ館は、「ウクライナ広場」と名付けられた庭にアートを展示していました。その真ん中に、袋が塔のように積まれたアートがありました。


ジャルディーニ会場の中心に特別設置された「ウクライナ広場」に積まれる土嚢は、何を表現しているのか。この土嚢のモニュメントを囲む木の柱には、ウクライナ人アーティストによる作品群がポスターのように掲示され、更新されていく。(Shutterstock)

これは実際にいま、ウクライナで見かけることができ、公共の場にあるアートを爆撃からまもるためのものだそう。ウクライナの現状が伝わってくる、今だからこそ生まれたアートです。

──サラワカ氏の話を聞いて、主会場、ジャルディーニとアルセナーレにはNFTに関する展示があまりない、という事実には衝撃を受けた。イタリアの保守性なのか、はたまたアート業界全体の、新参者を容易には受け入れない体質なのか。今年のヴェネチア・ビエンナーレに対する評価がどのようにされるか、次回のビエンナーレにはどんな変化が起きるか。見守っていきたいと思う。

文=Ryoseon Bae 編集=石井節子

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