世界中で大きな話題となったこの事件は、遠いハリウッドにおけるセレブ個人のニュースとみるべきではないことを、このたび日本のシンクタンクが行ったアンケート調査の結果が示している。むしろ、「ハゲ」「ズラ」などの言葉が会話のネタとして飛び交う日本社会こそが、容姿いじり(ハラスメント)の盲点として目を向ける必要があるようだ。
俳優のウィル・スミス(左)と、妻であるジェイダ・ピンケット・スミス(Photo by Mike Coppola/Getty Images)
ハラスメント意識の乖離が顕著
“加害者”6割以上「盛り上がる」“被害者”側は7割が「不愉快」
日本パブリックリレーションズ研究所が実施した薄毛いじりによる「『髪(薄毛)ハラスメント(髪ハラ)』に関する全国2万人アンケート」の調査結果をみていこう。いじる側の加害者と、いじられる側の被害者双方の意識の乖離が顕著に表れている。
「髪(薄毛)ハラスメント(髪ハラ)に関する全国2万人アンケート」より
まず、薄毛に悩む人の約4割が、いわゆる「ネタ」にされる、からかわれる等といった被害を受けた経験を持っており、その7割が「不快な気分になる」と回答した。しかし、「不快な気分になる」と回答した人の4割強が、その気持ちを伝えずに「不快感を隠す」対応をしていることがわかった。
また、薄毛に悩んでいない人の約3割が、薄毛の人に対して冷やかしたりする等の「髪ハラ」をした経験を持っているが、その6割以上は自身の行為に、「場の雰囲気がなごむ・盛り上がる」と回答。
また、直接、薄毛の当事者をいじるのではなく、本人がいないところでネタにしたり、その話題で一緒にもろ上がったりしたことがある人の半数近くが「罪悪感を抱かない」と回答している。陰口による陰湿な髪ハラと言えなくもない行為についても、罪悪感が乏しい現状が浮き彫りになった。
容姿をいじる「容姿ハラスメント」を無くそうという意識は、「パワハラ」「セクハラ」教育が日本の職場に根付く中で浸透してきているが、薄毛をいじる「髪ハラ」については問題視されることなく、日常会話やテレビなどの笑いのネタなどで日常化されたままであり、「容姿ハラスメント」の盲点ともいえそうだ。
また、被害者側も、場の空気を読むあまり「不快な気持ち」を押し殺す風潮も、この問題への洞察を遅らせてきた要因であることがうかかえる。