背景には、大企業ではすでに2020(令和2)年6月から「改正労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法)」が施行されたことがあるが、2022(令和4)年4月からはこれが中小企業にも義務化された。いま一度、職場のパワハラについては再確認が必要だ。
過去3年でパワハラ経験者は3割
実際のところ、パワハラはどれくらい発生しているのだろうか。過去3年間での勤務先でのハラスメント経験の有無や頻度を聞いた厚生労働省の調査によれば、一度以上経験した者の割合はパワハラが31.4%、顧客等からの著しい迷惑行為が15.0%、セクハラが10.2%だった。
パワハラ防止法が成立した背景には、パワハラの社会問題化がある。2012(平成24)年には「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」が公表されていたが、厚生労働省が平成28年度に調査を実施したところ、従業員の悩みや不満を相談する窓口において相談の多いテーマとして、「パワーハラスメント」が32.4%と最も多く、「メンタルヘルス」が28.1%と突出していた(「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」)。
また、厚生労働省「平成30年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」でも、いじめ・嫌がらせに関する相談件数が8万2797件で過去最高だった。
その矢先に、大手広告会社勤務の女性社員の過労による自殺が問題となった。上司によるパワハラも一因になったとの指摘をきっかけに、緊急対策も検討された。
かつての雇用対策法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律。略称:労働施策総合推進法)に手を入れる形でパワハラ防止法が施行されたのは2020(令和2)年6月1日のことで、すべての企業に遵守が義務付けられ、中小企業に関しては、この3月までは努力義務とされていたが、4月からは前述のように義務化された。
パワハラが起きると信用を失う
ところで、悩ましいのは、パワハラと認定される行為の線引きだ。パワハラ防止法によると、1.職場において行われる「優越的な関係」を背景にしている、2.業務上必要かつ相当な範囲を超えている、3.労働者の就業環境が害される、の3要件が重なったものが法的にパワハラとして認められる。
ここで言うところの「職場において」とは、会社のなかに限らず、職務や職場の関係性のなかにある限り該当すると考えられるため、例えば、退社後の上司との飲み会なども含まれる。
また、「優越的な関係」とは、上下関係に限らず優位性のことを意味しているため、人事権といった職務権限には限らない。代表的な具体例は表の通りだが、実際には個々の事例による。
「パワハラ」の難しいところは、行為者が無自覚で無意識な点だ。だからといって会社が放置していたとなれば、確実に会社にも累が及ぶ。当事者は刑事上および民事上の責任を負うことになるが、それだけでなく、会社も使用者責任、労働契約の債務不履行、安全配慮義務違反、など民事上の責任を負い、労働災害もからむ。
特に心しておきたいのは、法的責任だけでなく、会社内部や取引先への影響も大きい点だ。パワハラが生じるということは、当然に、「ブラック企業」という印象を持たれてしまう。これまで築いてきた信用を失うのは一瞬だ。
失った信用の回復には、長い時間と労力がかかる。人材流出や生産性低下を引き起こしてからでは、企業の存続にも影響する。パワハラに対しては、起こらないようにするための事前の対策が何よりも重要になるのだ。