経済・社会

2022.05.11 18:00

ロシア国家のDNAか 過ちのプーチンが導く先


いずれこの酷い侵略事件も落ち着くところに落ち着くー落ち着かないという落ち着き方も含めてーのだろう。ロシアが完全撤退するか、反対にウクライナを膝下に従えるか、部分的にウクライナを簒奪するか、両国のとりあえずの妥協案を見いだすか、専門家はいくつもの可能性を挙げている。どの着地であれ、ロシアはNATO諸国とは高いレベルの緊張関係を強いられ、中国の存在感が増すことになるのではないか。
advertisement

問題はこんなポスト・ウクライナ侵略で何がどう変わるかである。すでにさまざまな予想が語られている。ただでも米中対立で混迷を極めていた国際情勢が、いっそう錯綜して不安定になることは間違いない。冷戦時代の東西対立が別のかたちでよみがえる可能性もある。G0(Government 0)ならぬG2(Group2)の世界だ。

当面は自然エネルギーへの取り組みがより複雑になっていくだろう。欧州のロシアへのエネルギー依存度は高い。天然ガスの半分近くをロシアから購入している。欧州は自然エネルギー先進地域だが、現状では到底化石エネルギーに代替するところまでは達していない。かりにロシアからのルートが閉ざされるようなことになると、化石エネルギーの再興や他地域からの供給に頼らざるをえない。化石エネルギー確保に労力や資金を取られて、自然エネルギーシフトはしばし足踏みする可能性が高い。

もっとも、中長期的には、安全保障の観点から脱炭素化が加速度的に進むと思う。人間は自然エネルギーへの理想論からではなく、ロシアという『いまここにある危機』に真剣に立ち向かうからだ。将来、石油やガスなどの天然資源が無価値化されてしまえば、ロシアはたんに国土が広大な無法地帯に堕すだけである。
advertisement

いずれにしても、プーチンの犯した過ちはあまりに大きい。彼はトルストイを読んでいないのだろうか。「この物語の悪人は誰で、主人公は誰であるか?…私が魂の全力をあげて再現しようと努めた主人公、それは実に真実である」(『セワ゛ストーポリ』中村白葉訳 岩波文庫)


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボード、嵯峨美術大学客員教授などを兼務。

文=川村雄介

タグ:

連載

川村雄介の飛耳長目

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事