成長し続ける多くの企業では昼夜を分けず猛烈に働くことが時代の流れとなり、当時は誰もが会社の成長と自分の未来を当たり前のように重ね合わせていました。頑張って働けばその分給料も上がり、経済の成長こそが自分の幸せにもっとも重要な条件だと、多くの日本人が信じて疑わない時代だったと言えるでしょう。
しかし、バブルの崩壊後に経済低迷が続き、2010年にはGDPも中国に抜かれ3位に転落。“失われた20年”と言われた期間は30年になり、未だに日本経済は長いトンネルを抜け出せないでいます。
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幸せのあり方を問う時代に
日本人の幸福感も、昭和から平成、令和と時代の変遷とともに若い世代を中心に大きく変わってきていますが、日本ばかりではなく世界的にも今、幸せの価値観は大きく転換しています。
その背景には、社会が成熟し、グローバル化が進み、人々の価値観や生き方が多様化したこと、社会課題を取り巻く利害関係が複雑化したことがあります。
これまでの社会では主に「経済成長」に価値が置かれ、GDPなどの指標を追求することが優先され、経済合理性がないものは重要視されませんでした。その結果、貧困や格差が広がり、食糧不足や環境問題が深刻化するなど、弊害ともいうべき課題が次々と生まれ、無視できないレベルとなっています。
コロナ禍真っ只中の2021年、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)は「グレート・リセット」をテーマに掲げ、創設者であるクラウス・シュワブ会長は「世界の社会経済システムを考え直さねばならない。第2次世界大戦後から続くシステムは環境破壊を引き起こし、持続性に乏しく、もはや時代遅れだ。人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ」と述べました。
この「グレート・リセット」では、「人間らしさの見直し、心身の健康(ウエルビーイング)」について、高い優先順位が設定されることとなりました。
ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンがアメリカ人を対象に幸福と金の関係の大規模な調査をおこなったところ、日々の幸福感に関して言えば、年間所得が7万5000ドル(約900万円)を超えると、所得がそれ以上増えても幸福感は高まらないということがわかりました。
また、カナダのブリティッシュコロンビア大学のエリザベス・ダン准教授とアメリカのハーバードビジネススクールのマイケル・ノートン教授の共同研究では、年収が2倍になっても、私たちの幸福度は9%しか上昇しないという結果でした。
このようなさまざまな研究からも、経済成長が必ずしも人々の幸福と直接リンクしないという傾向が明らかになってきています。そんな中で今、改めて新しい幸せのあり方が問われているのです。