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2022.05.08 12:30

10年先を見続けよ。究極のエネルギーを支える特殊銅合金の雄


核融合国際プロジェクトから初受注


新しい分野にも飛び込む萩野の世界戦略は21年に大きな実を結んだ。現在、フランスでは世界35カ国が参加する国際的な核融合実験「ITER(イーター)」プロジェクトが進められているが、大和合金は核融合炉の第一炉壁に使われる板材を入札で勝ち取ったのだ。


国際プロジェクト「ITER」向けに開発した特殊銅合金の冷却管。製造方法は世界で特許を取得。

核融合はカーボンニュートラルが叫ばれる時代に「究極のエネルギー源」として期待される技術で、原子力発電とは根本的に異なる。核分裂反応がないため安全性が高く、高レベル放射性廃棄物や温室効果ガスも排出しない。わずか1gのトリチウム(三重水素)で石油8t分のエネルギーを生み出せる。

そんな注目分野に大和合金が挑戦し始めたのは06年。三菱マテリアルの紹介で那珂研究所(現・量子科学技術研究開発機構)から声をかけられたことがきっかけだ。すでに15年が経過した。

「核融合炉の壁には、スペースシャトルが大気圏に突入する際と同等以上の熱負荷に耐えうる性能が求められます。数字で表すと1億℃以上。試行錯誤の連続で、世界で初めて認証試験に合格するまでに10年かかりました。その技術は6カ国で特許を取得しました」

当初、ITERの計画では実験炉の運転開始は25年、核融合実験は35年とされていた。そのため周囲からは「無謀だ」と酷評された。実験炉に使う材料は量も少ないため大きな収益が期待できない。応援してくれた出資者からも「あまり事業の柱になると思うなよ」と忠告された。

「儲かるかどうかよりも、夢のエネルギーにかかわれることが大きなやりがい。会社は生き物だから、社員がワクワクできる存在であり続けたいんですよね」


社員は10〜80代まで幅広い。若手も積極採用し活躍中。

核融合炉の第一炉壁の機器調達を担うのは欧州の研究機関だが、入札参加資格をもつ会社は大和合金を含めて世界に5社しかない。事前に財務状況、生産能力、技術力などが厳しく審査され、実験材料の供給もクリアする必要があるからだ。初めてアプローチしてから入札参加の前提となる包括契約締結に至るまでに6年を要した。欧州以外の企業で唯一選ばれた価値は大きい。

そして、国際協調で始まったプロジェクトは、ついに国際競争の局面を迎えている。ベンチャー企業による核融合実験炉の建設計画も相次いで発表され、出資者にはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツやアマゾンのジェフ・ベゾスも名を連ねる。市場が拡大したとき、大和合金にとってITERの実績は大きなアドバンテージとなる。

「今後は欧州の研究機関へ板材だけでなく冷却管の受注も目指します。面白い段階にきましたよ」

萩野が見据えるのは次の10年だ。


萩野源次郎◎大和合金代表取締役社長、工学博士。1968年、東京都生まれ。上智大学大学院理工学研究科修了。花王での研究職を経た後、99年に大和合金入社。2012年12月より現職。海外進出を進めている。

大和合金◎1941年、初代の萩野茂が三菱製鋼から独立して創業。特殊銅合金の研究開発から溶解、鍛造、加工、検査までを一貫して行っている。多品種少量生産が可能で、航空、鉄道、宇宙、エネルギーなど多分野に進出して国内外で製品を提供している。

文=畠山理仁 写真=吉澤健太 イラストレーション=ポール・ライディン

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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