1300℃の溶解炉でオレンジ色の金属が輝く。熱を帯びた塊は鍛造プレス機で何度もたたかれる。にぎやかな音が飛び交う町工場が生み出すのは、世界最高水準の性能をもつ特殊銅合金だ。
「ちょっと触れただけでも高温で体が溶けちゃうんで気をつけてください」
白いヘルメットに作業着姿で工場を案内するのは大和合金社長の萩野源次郎。厳しい製造の現場にいても笑顔を絶やさない明るい経営者だ。
同社は1941年の創業以来、約80年にわたり特殊銅合金ひと筋で歩んできた。初代は新材料を開発し、2代目は用途を広げて国内に拡販した。「3代目の私は新規分野にも挑戦して世界に拡販することが仕事」だと萩野はいう。
現在は素材の配合や製法が異なる約100種類の合金を自動車・半導体・鉄道・航空機業界などに幅広く提供する。同社の製品はF1カーのエンジン部品にも採用され、レースの優勝に貢献している。
銅は熱や電気の伝導性に優れているが、強度が低いという欠点がある。しかし、純銅に多様な素材を組み合わせ、熱を加えたり、たたいたりすることで特殊鋼並みに強くなる。大和合金は溶解、鍛造、熱処理、加工、検査まで一貫して自社で行い、新素材を開発できるのが強みだ。
納品前の検査。高い品質が次の仕事を呼ぶ。
素材の配合や加工方法で100種類の製品に特徴を出す。
萩野は大学院を修了後、化学メーカーを経て99年に入社。常に「10年先」を見据えて事業に取り組んできた。
「生き残るには世界が買い求めに来る唯一無二の製品をつくり続けるしかない」
営業職として入社した当時からそう考えていた。しかし、そのころは商社を通じて納めることが多く、自社製品が最終的にどんな用途で使われているかも知らなかった。調べてみると、全日本空輸が航空機の部品に使っていた。ただ、日本航空やエアバス、ボーイングといった同業の大手は使っていなかった。
「なんで使われないんだろう?」
この素朴な疑問が航空産業への売り込みを始めたきっかけだ。国際展示会への出展を重ねるうちに業界事情がわかり、自社の技術と応用力を理解してもらうと、ドイツやフランスの会社と直接取引が始まった。航空業界との取引量は10年間で10倍に伸び、19年には初の海外拠点をポルトガルに開いた。
「銅合金の舞台は世界。ちょっと変わった難しい材料だけど、世の中には絶対に必要です。社会課題を技術で解決するなら大和合金といわれる会社になりたい」