公共トイレに世界が注目。渋谷区「THE TOKYO TOILET」の今

左上から時計回りで、代々木深町小公園トイレ(坂茂)、東三丁目公衆トイレ(田村奈穂)、七号通り公園トイレ(佐藤カズー/ Disruption Lab Team)、神宮通公園トイレ(安藤忠雄)


ユニバーサルデザインの重要性


プロジェクトを著名なクリエイターたちに相談していくと、ほとんど全員から前向きな返答があったという。トイレをデザインするうえで、クリエイターたちに提示した条件は「公的に定められた建築基準を遵守すること」、「(できるだけ多くの人たちが利用可能である)ユニバーサルデザインのトイレを設置すること」、そして「トイレ内のレイアウト等についてTOTOの監修を受けること」の3つだった。

それ以上の条件を設けることがなかったため、あとはクリエイターたちの課題解決力と表現力に委ねられたという。

2021年7月に完成してオープンした伊東豊雄氏デザインの「代々木八幡公衆トイレ」は、800年以上の歴史がある代々木八幡宮の森の脇にあり、その場所にちなんだと思われる3本のキノコを連想させる外観だ。分散して配置された3つの棟は、敷地内に行き止まりのない回遊性と視線の抜けを生み出し、防犯性を高めていることを狙っているという。


誰もが快適に利用できる公共トイレを設置するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」が渋谷区の17箇所で展開されている(代々木八幡公衆トイレ、伊東豊雄設計)

また、佐藤カズー氏とTBWA\HAKUHODO Disruption Labチームがデザインした「七号通り公園トイレ」(2021年8月オープン)は、すべての動作を声で指示する「ボイス・コマンド」を導入、「手を触れない」がコンセプトとなっている。もちろん、手を触れての利用も可能だ。

このようにプロジェクトは、各クリエイターたちが公共トイレという日常的な公共空間の課題解決を提案、そして表現する場となった。有名な建築や重要な案件を手掛ける第一線のクリエイターたちの腕の見せどころとなり、「これまででいちばん面白いプロジェクトだった」と語ったクリエイターもいたそうだ。


東京都渋谷区の七号通り公園のトイレでは、音声認識技術を利用し、手を使わずに操作ができる

「THE TOKYO TOILET」のコンセプトはあくまでも「誰もが快適に使用できる」だ。そのため、どの公共トイレにもユニバーサルデザインのトイレが設置されている。必ず車椅子対応やオストメイト用設備も完備されている。他にも、ベビーチェアや介護用ベッドなどが設置されているトイレもあり、公式サイトからもそれらの有無が確認できるようになっている。


高級ホテルや商業施設を思わせるような神宮通公園のユニバーサルトイレ。オストメイト対応器具、ベビーチェア、おむつ交換台も設置されている
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文=内田有映 写真提供・取材協力=日本財団 撮影=永禮賢

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