「幸あれ!」
そしていま、江上が見据えるのはミナミの知見を生かした教育事業の開拓である。「楽しく効率的に学ぶ」をモットーに、まずは簿記やファイナンシャル・プランナーの資格取得や日本語習得のためのエンタメ教材の開発を検討中だという。
生徒が楽しく学べるようにと、学科教習用CGアニメなどエンタメ性が高い教材を開発・外販する
「僕はビジョナリーではなくて積み上げ型なんです。目の前の壁をひとつ乗り越えたら次が見える。懸命に取り組んでいるうちに縦や横へと道が開けて、結果的に事業全体の面積が大きくなる」
しかしいま、ミナミでは江上にも想定外だった事態が起きている。若手社員たちが思い思いに「変身」を遂げようとしているのだ。ウガンダの現地法人社長を任せた若手社員は事業の傍ら、ドライマンゴーの製造・販売を始めた。別の社員は「かめライダーを超えたい」とユーチューバーの活動に力を注いでいるという。
地元の若者を積極的に採用。女性の教習員も多い
こうした社員の変化を、江上はどうとらえているのか。
「許容できる範囲だったら自由にやらせます。人間の可能性って、その人の長所が生きる環境を与えれば無限に花開くと思う。誰かをエンパワメントできる環境を用意するのが自分の生きがいなんです」
応援はするが、必要以上に口は出さない。そんな江上の姿勢は、かめライダーの決めぜりふ「幸あれ!」にも表れている。
「他人の人生を大きく変えることはできなくても、目の前の人をポジティブに応援することはできる。『幸あれ!』という言葉には、そんな思いを込めています」
取材がひと段落し、ジャケット姿でポートレート撮影を終えると江上は「かめライダーを呼んできます」と言って立ち去った。
数分後、全身タイツ姿の男が現れた。カメラを向けると流れるようにポーズを決めていく。その横で、ミナミの広報担当者がこうささやいた。
「この格好をしているときに『社長』って呼んじゃいけない決まりなんです」
撮影が終わると、かめライダーは取材スタッフに向かって決めぜりふを発した。
「皆さんに〜、幸あれ!」
教習所に響きわたる声でそう叫ぶ江上、いや、かめライダーの姿からは、もはやみじんのためらいも感じられなかった。
江上喜朗◎福岡県生まれ。東京理科大学卒業後、リクルートのグループ企業で新規事業企画や採用に携わる。インターネットベンチャー取締役を経て、2010年に家業である南福岡自動車学校に入社。11年に同社社長に就任。
ミナミホールディングス◎南福岡自動車学校を中核事業としながら、教習所で用いる学科教習用CGアニメの開発・外販やAI教習システムの開発、全国の教習所の経営コンサルティング事業など、数々の先駆的な取り組みを手がける。2018年以降はグローバル市場に進出し、カンボジアやウガンダでも事業を展開している。